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「ひょうたん揚げ」仙台で愛され40年 キツネ色のスナック、訪日客にも人気

 サクッとしたきつね色の衣の中に、ふんわりとしたかまぼこのボール-。笹かまぼこ製造の老舗、阿部蒲鉾(かまぼこ)店(仙台市)が40年ほど前から販売する「ひょうたん揚げ」のファン層が拡大している。気軽に食べ歩きが楽しめるスナックとして、宮城県内外の若者らに親しまれ、交流サイト(SNS)を通じてインバウンド(訪日客)にも支持が広がる。製造と販売の現場を訪ね、人気の秘密を探った。(経済部・高橋唯之)

ひょうたん揚げを持つ鈴木さん

デビューは青葉まつり、老若男女が支持

 阿部蒲鉾店が初めてひょうたん揚げを販売したのは1985年、仙台市中心部で開催された第1回仙台・青葉まつりの会場だった。阿部賀寿男社長(59)は「祭りを盛り上げるため、気軽に食べられる商品を開発した」と説明する。1本70円で販売したところ、子どもから大人まで幅広い年代に人気を博した。

 青葉区のクリスロード商店街に94年、中央店(現・本店)を構え、通年販売を開始。買い物客らが集う人気スポットになった。現在は1日最大2000本を用意し、1本300円で売っている。

 SNSを通じて、県外からの旅行客にも人気は広がる。県内でコンサートを開いたアイドルが、ひょうたん揚げをSNSで紹介すると、売り場にファンの長い列ができたこともあった。売り切れてしまい、SNS上に「買えなくて悔しい」という声が投稿された。

 SNS効果は海外にも波及し、売り場で写真を撮影する訪日客の姿が増えている。

 阿部蒲鉾店は今年10月で創業90年を迎える。「おいしさを追求するのは笹かまぼこもひょうたん揚げも同じ」と力を込める阿部社長。次の10年を見据え「いつか大谷翔平選手(岩手・花巻東高出)が活躍する米大リーグのドジャースタジアムで売りたい」と夢を語る。

丸くおいしく美しく、熟練の「巻き」

 ひょうたん揚げの生産は泉工場(泉区)にいる熟練の社員が手がける。きれいな丸い形に仕上げる技と、おいしさを追求する情熱が人気を下支えしている。

 生産部の鈴木健一さん(51)によると、ひょうたん揚げ専用のかまぼこは、機械による三つの工程で製造する。焼いた笹かまぼこをいったんすりつぶし、さらにスケトウダラのすり身を混ぜ合わせる。ボール状に成形した後でゆで上げ、最後に蒸して仕上げる。

 2個ずつ串に刺した後は「職人技」の出番。手作業で衣の生地にくぐらせる「巻き」と呼ばれる作業だ。揚げの仕上がり具合まで左右する重要な工程という。

 鈴木さんは「『巻ける』ようになるまでに3、4カ月。商品として販売できる水準になるまで最低半年はかかる」と説明する。

 ポイントは串を生地にくぐらせる角度とスピード。生地に長く漬けるとかまぼこが水分を吸い、揚げている最中や揚げ終わった後に串から外れる原因になる。

 2個のボールを同じ大きさで、まん丸に揚げられるかどうかは「巻き」の出来栄えが左右する。「勝負は一瞬。日々、修業あるのみ」と鈴木さんは語る。

 「巻き」の直後、衣を付けたかまぼこを油の入ったフライヤーに投入する。均一のきつね色に仕上げるには、取り出すタイミングが大事になる。ロスは数%以下に抑えているという。

ひょうたん揚げの製造には企業秘密がいっぱい。工場見学のコースからは屋根しか見えない=仙台市泉区の泉工場

 鈴木さんは巻き作業を担当して5年。最初は先輩の作業を見よう見まねで学んだ。現在は指導する立場になり、同僚とのコミュニケーションを大切にする。

 「技術も大事だが、丸くきれいに作ろうという気持ちが重要。出来上がりを見れば、気持ちが入っているかどうかすぐに分かる」。職人の目はごまかせない。

 鈴木さんにお薦めの食べ方を聞くと、「あまり言いたくはないが…」と前置きした上で、教えてくれた。

 かつお節と刻んだ紅しょうがを振りかけて、ソースを少々。たこ焼き風にするといいらしい。「タコもかまぼこも同じ魚介類。おいしく食べられる」と話す。

 パンに付けるチョコレートを温めて塗ったり、生クリームを乗せて食べたりもする。デザート感覚で家族と一緒に楽しむという。

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