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かんぽ「不正営業まん延」元郵便局員が実態証言 「うその説明」で高齢者勧誘

かんぽ生命の保険商品を巡る不適切な営業実態について説明する男性

 日本郵政傘下のかんぽ生命保険とゆうちょ銀行が高齢者に対して不適切な販売を繰り返していた問題を巡り、東北地方の郵便局に数年前まで勤務した男性が河北新報社の取材に応じ、営業現場の実態を語った。厳しいノルマを背景に「虚偽の説明で加入させる不正な営業がまん延していた」として具体的な手法を証言。「娘や息子に知られたくないと泣き寝入りした高齢者がたくさんいると思う」と打ち明けた。

 男性は新卒での入社から数年間、郵便局の渉外担当部署に勤務。個人宅を訪問し、かんぽ生命の保険商品を販売するのが主な業務だった。

 「何だこの数字は」「契約を取るまで帰ってくるな」「給料泥棒だ」

 各社員にノルマが課され、達成できないと上司や支社の担当者から怒号が飛ぶ職場環境が常態化していた。「自分がいた職場もそうだし、他局の同期に聞いても似たような雰囲気だった」と男性は話す。

 渉外担当は販売実績に応じて営業手当が付く仕組みだった。「多くの社員が手当を稼ぐためにあらゆる『話法』を身に付け、貯金の多い高齢者を狙って足を運んでいた」と明かす。

 定着していた手口の一つが「2年話法」。2年を経ずに保険が途中解約された場合、社員は営業手当を会社に返還しなければならず、その回避が狙いだ。

 例えば、払込期間10年の保険商品について「保険料を毎月ではなく、2年分を一括で払えば加入できます」とうその説明をして加入させる。あたかも払い込みは終えたと加入者に思い込ませるが、実際には2年後から毎月請求が来る。その後に解約されても手当を返還する必要はない。

 「相続話法」も常とう手段で、相続税や贈与税などの話をして節税目的の加入を促す。だが、社員はかんぽとゆうちょの資産しか把握していない場合が多く、銀行預金や土地などを含めた資産全体での節税には意味がないという。マイナンバー制度を持ち出し「資産が国に可視化され、余計な税金がかかる」などとうそを言うこともある。

 他にも、70歳以上の加入には家族の同席が必要だが、「あなたはしっかりしているから大丈夫」などと話して同席拒否の欄に丸を付けさせる、健康確認の際に服用薬を全ては記入しないようにする、などの手法が横行しているという。

◎泣き寝入り 不正発覚せず

 保険商品の営業現場で横行する一連の不正が明るみに出なかったのはなぜか。男性は「不要な加入が後で分かっても『何で契約したんだ』と家族に怒られたくないからと、秘密にする人が多かった」と説明する。

 男性自身も、相続やマイナンバーを持ち出した虚偽の説明を日常的にしていた。「罪悪感はあったが基本給が低く、営業手当を得るにはやるしかなかった」と打ち明ける。

 ある時、他県に住む親族の元にかんぽの営業が来たと知った。「自分の知らないうちに加入してしまったらと不安になった」。身内に提案できないような仕事は間違っていると感じ、郵便局を辞める決心をした。

 不正な営業が減ってほしいと願うが、こうも思う。「(2007年の)民営化後は郵便部門の赤字を埋めるためにノルマが降りてくる構図。個々の郵便局の意識改革だけでは無くならないのではないか」。現場の同期から聞く話は、今も変わっていない。

◎「お答えできない」日本郵便東北支社

 かんぽ生命保険の不適切営業について、日本郵便東北支社は河北新報社の取材に「本社で全て対応しており、支社としての把握状況や対応はお答えできない」と回答。日本郵便広報室は「当社は代理店であり、対応と調査はかんぽ生命が行っている」と説明した。

 かんぽ生命は「過去5年分の保険契約を調査し、問題があったと判断すれば訪問する」としている。契約内容確認の連絡先は(0120)552950。

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