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<かんぽ不正販売>「同行募集」が不正の温床 上司と営業、責任は部下だけ 現役社員ら証言

営業担当に配られていた個人別実績表。上位の多くは課長や課長代理が占めている(画像の一部を加工しています)

 かんぽ生命保険の不正販売問題を巡り、上司と部下の2人で営業に赴く「同行募集」が不正の温床になっているとの声が内部から挙がっている。保険販売を受託する日本郵便の現役社員の男性は河北新報社の取材に「クレームがあれば部下だけが責任を取らされる不公平な構造」と証言。高齢者との契約時に家族同席を必要としないための方便にもなっていた。

 東北の郵便局で勤務する社員によると、同行募集は渉外担当の課長や販売実績を積んだ「営業インストラクター」と呼ばれる東北支社の社員が若手と営業に向かう。若手は電話で約束を取り付けるだけで、顧客への説明は上司が行う。

 上司は客に「相続税対策」と誘導したり「2年後に全額戻ってくる」などとうそを伝えたりする。実際の契約書は後日、若手が単独で再訪問してまとめることが多い。こうしたケースでは、契約した保険料の半額が上司の営業実績になる。

 営業担当には、ブロック別の「かんぽ個人別実績表」が配られていた。販売実績順に所属と名前、肩書、前年同期比の数字が並ぶ。上位のほとんどは課長や課長代理が占め、同行募集が繰り返されている実態をうかがわせる。

 社員は「若手は数日前からアポ取りに追われる上に、うそばかりの営業を目の当たりにして良心が痛む。次第に精神的に追い込まれる」と明かす。

 昨年、社員と同じ県に勤務していた若手が同行募集をしたケースで、契約書に虚偽の内容を記載した事実が発覚した。しかし、営業停止処分を受けたのは若手だけで、上司に処分はなかった。「知らない」と言い張る上司。若手社員への謝罪もない。この若手は会社に嫌気が差し、退社した。

 関係者によると、数年前に採用された日本郵便東北支社の新人約100人のうち、過剰な目標に追い込まれるなどして、すでに約40人が辞めたという。

 東北の元社員の男性は、同行募集が広がった背景として「部長や課長といった管理者がいれば、保険の説明時に家族の同席が必要ない」という内部ルールの存在を指摘する。

 契約者が70歳以上の場合、本来は契約説明時に家族の同席を依頼し、80歳以上には同席が必須になる。しかし、管理者が同行すれば例外。元社員は「決めごとには必ず抜け道がある」と会社の体質を指摘する。

 過酷なノルマによる重圧も要因。単独で契約件数が増えない若手にとって、管理者と同行することでノルマが達成できるため、拒否することができず、次第に同行が常態化していく。

 元社員は「目の前の客の暮らしより、自分の数字を上げることしか考えられなくなる」と証言する。

 現役社員によると、問題発覚後の今月上旬、東北支社幹部が部下に対し、「騒動の謝罪を切り口に新たな契約につなげてほしい」との趣旨の発言をした。「上層部は『ピンチはチャンス』と考えているようで、世間との感覚があまりにもずれている」と漏らす。

 かんぽ生命と日本郵便が保険営業の自粛を始めたことが報じられたが、職場ではまだ何も聞いていない。この社員は今、退社に心が傾き始めている。
(この記事は「読者とともに 特別報道室」に寄せられた情報を基に取材しました)

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