閉じる

台風19号「排水遅れ被害拡大」 強風でポンプ設置できず、開発で流入水量増との指摘も

大崎市が設置したポンプ場を見る斎藤さん。フル稼働でも浸水を防げなかった
台風19号豪雨で12棟が浸水した廻山地区=2019年10月13日

 昨年の台風19号豪雨で水害に遭った宮城県大崎市三本木廻山(めぐりやま)の住民から、「国による排水の遅れが被害を拡大させた」という訴えが「読者とともに 特別報道室」に寄せられた。地区では鳴瀬川に流れ込む排水路の水があふれ、計12棟が浸水した。現地を歩くと、雨量が想定を超えた上、排水対応が後手に回った状況が浮かび上がった。

 多くの車が行き交う国道4号三本木大橋の南西側。廻山地区は鳴瀬川の堤防、道の駅三本木、水田を土盛りして造った国の河川防災ステーションに囲まれ、鉢の底のような地形だ。

 昨年10月12日午後11時、豪雨によって鳴瀬川の水位が上昇。国が委託する操作員が、廻山から川へ注ぐ排水路への逆流を防ぐため水門を閉めた。

 西側にある東北地方整備局の河川防災ステーションには、広域的に対応できる移動式の排水ポンプ車(排水能力毎秒1トン)が配備されていた。市から派遣要請があれば出動する手はずだった。

 同局北上川下流河川事務所大崎出張所によると、午後11時すぎに市から要請を受けたが、ポンプを設置するクレーン車を派遣できなかった。強風で作業員の安全確保が難しいと判断したためだった。

 配管工事業を営む斎藤博さん(68)は自宅が40センチ床上浸水した。事務所と合わせ、壁や床の張り替えや冷蔵庫などの買い替えに約1500万円を要するという。「強風を伴う台風が来ることは分かっていた。早くポンプを設置すれば被害を軽くできた」と憤る。

 地区では2015年の関東・東北豪雨でも排水路があふれて床上13棟、床下1棟の浸水被害があった。市は住民から要望を受けて昨年6月、毎秒1トンの排水能力を持つポンプ場を新設。台風19号の際にフル稼働させたものの、処理が追い付かなかった。

 「行政の開発が氾濫を招いた」という声もある。廻山地区の周辺は保水力のある水田地帯だったが01年に道の駅、02年に防災ステーションが整備された。地元の警備員瀬戸康正さん(65)は「排水対策を十分にしなかったため廻山に集まる水量が増えた」と問題視する。

 市の推計では台風19号時、毎秒5トンの水が排水路に流れ込んだとみられる。これに対し、市のポンプ場と国のポンプ車を合わせても排水能力は毎秒2トン。水害の再発を恐れる住民の不安は尽きない。
(喜田浩一)

◎国、早めのポンプ配備検討 大崎市は貯水能力の向上推進中

 台風19号豪雨時にポンプ車の稼働が遅れたことに対し、東北地方整備局北上川下流河川事務所大崎出張所の国部啓武(ひろむ)所長は「今後は大崎市と協議し、早めにポンプ車を配備する態勢を検討したい」と話す。

 市は昨年末から廻山地区の16戸を対象に移転やかさ上げなどの希望を調査した。9日に市三本木総合支所で説明会を開いて結果を示す予定。宍戸宏武(ひろむ)支所長は「排水路の上流にある調整池を掘り下げ、貯水能力を高める計画も進めている」と説明する。

 加藤栄典建設部長は「川がある限り、大雨が降れば100パーセント安全とは言い切れない。住宅のかさ上げへの支援策など対応を話し合いたい」と語る。

ライブカメラ