部活の送迎、保護者頼み SNSアンケート 保険やガソリン代負担の取り決めは17%
「子どもが通う中学の部活動の保護者会で、顧問から練習試合や大会の移動は保護者の車に乗り合わせるよう言われた。事故が起きたら責任はどうなるのか」。仙台市の40代の母親から部活動の送迎を不安視する声が「読者とともに 特別報道室」に届いた。河北新報社が読者らにアンケートをすると、責任の所在があいまいなまま保護者の送迎に頼っている現状が見えてきた。
アンケートは会員制交流サイト(SNS)の無料通話アプリLINE(ライン)で実施。自家用車で部員を送迎した経験がある人は全体の74.8%に上った。送迎については「仕方がない」が最多で50.3%、「やめるべきだ」が21.5%、「当然だ」が17.0%、「学校がやるべきだ」が11.1%だった。
10.4%が送迎時のトラブルを経験していた。「車を出す人と出さない人がもめた」「送迎できないため子どもを退部させた」など保護者間の人間関係が大半だったが、物損事故を起こしたケースも2件あった。
部単位で損害保険の加入やガソリン代の負担について決めていたのは、わずか17.0%。「事故が一番心配だったが、部活動向けの保険があるとは知らなかった」(仙台市若林区・40代女性会社員)、「ガソリン代は自腹。お互いさまという雰囲気だった」(仙台市青葉区・40代主婦)などの声があった。
仙台市宮城野区の女性会社員(40)は「ルールの明確化が大事」と強調する。7月に引退した中学3年の長男(15)が所属する運動部では、顧問と保護者が話し合い、移動時の事故やけがを補償するスポーツ安全保険に団体で加入。移動は公共交通機関の利用を原則とし、自家用車で移動する際は保護者会が車代を支払い、高速料金は実費を徴収することにした。
新型コロナウイルスが感染拡大するまでは毎週末のように県内外で練習試合があったが、「顧問もバスや地下鉄で引率してくれた。全員で協力する姿勢を感じたので納得できた」と振り返る。
宮城県南に住む50代主婦の次女が中学時代に所属した運動部は、基本的に顧問が手配した貸し切りワゴン車で移動したという。主婦は「事前に参加の有無を確認し、料金を人数割りした。明朗会計で親の負担が少なかった」と答えた。
調査は3~5日、「読者とともに 特別報道室」のLINEで友だち登録をする人に実施。計135件の回答があった。
◎オープンな議論必要
中学の部活動の送迎はどうあるべきか。日本部活動学会長で関西大人間健康学部の神谷拓教授(スポーツ教育学)は「部活はあくまで学校の教育活動。子どもたち自身で課題を解決するのが大前提」と強調する。
神谷教授によると、競技成績が進学に影響するため強豪校ほど対外試合や参加する大会も多く、保護者の負担が大きくなる傾向にあるという。
教師の過重労働や部員の練習量を適正化するため、スポーツ庁と文化庁は2018年に部活動のガイドラインを策定。休養日や参加予定の大会など年間の活動計画を作成するよう都道府県に求めたが、家庭の負担軽減については言及していない。
宮城県や仙台市は同年、中学・高校部活動の方針を定めた。仙台市では、練習試合や大会の移動手段は公共交通機関が原則。利用が困難な場合は、バス事業者や保護者の協力を求めてよいとしている。市健康教育課は「送迎を不安視する保護者から相談があった場合は、学校に保護者と話し合うよう指導している」と話す。
一方、県のガイドラインには移動手段の記載がない。県スポーツ健康課は「郡部などでは公共交通機関が充実しておらず、生徒だけで会場に行けない」と各校の裁量に委ねる。
神谷教授は自家用車での送迎が避けられない場合は「必ず保険に加入しなければならない」としつつも、保護者の送迎が「暗黙のルール」になることを危惧する。「部活動運営の課題は生徒が主人公となって解決するべきだ。保護者、顧問ら当事者のオープンな議論が必要。校長は全体を把握し、適切に指導することが求められる」と指摘する。
(長門紀穂子)