「あの日から」第6部 地域と前へ 石巻・松村豪太さん(下) 芸術祭実現、人呼ぶ柱に

旅行会社の関係者にRAFについて説明する松村さん(左)=4日、石巻市荻浜

 悠然と空を見上げるかのように、高さ約6メートルの白鹿の像が立つ。
 アートや食、音楽の総合祭「リボーンアート・フェスティバル(RAF)」の作品の一つで、石巻市牡鹿半島の荻浜に常設されている「White Deer」。4日、首都圏の旅行会社関係者ら十数人が視察で訪れた。
 「RAFを象徴する作品です」。実行委員会の事務局長を務める一般社団法人「ISHINOMAKI2.0」代表理事、松村豪太さん(46)=石巻市=が解説した。
 視察は、RAF期間以外に常設作品などを巡る訪日外国人向けツアーのプランを作ってもらうことが目的。松村さんは「期間中だけでなく、日常的に石巻に人が来る状態をつくりたい」と意気込む。
 RAFは東日本大震災の被災地復興を願い、一般社団法人APバンク(東京)と実行委が牡鹿半島を主会場に開く。2016年にプレイベント、17年に初めて本祭を開催した。昨年の第2回本祭は、市中心部と半島の計7カ所に設けた鑑賞エリアに約70組のアーティストが出品。延べ40万人以上を動員した。
 誕生の立役者は、APバンク代表理事で音楽プロデュ-サーの小林武史さん(61)=新庄市出身=。震災後、持続可能な被災地支援を模索していた。新潟県であった国際美術展に着想を得て、地域での芸術祭を答えに選んだ。
 APバンク東北担当の江良(えら)慶介さん(44)=東京都=は現地のパートナーとして松村さんに注目した。2.0が手掛ける創造的なまちづくりが芸術祭のイメージと重なった。「やるなら石巻です」。江良さんから勧められた小林さんは松村さんと交流を深め「東北のため、人を呼び込める質の高いものをつくろう」と思いを一つにした。
 舞台となる石巻市は当時、道路復旧、災害公営住宅整備といった復興事業に追われていた。「携わる余裕がない」と拒む市幹部を松村さんが説得した。「道路や家ができても、わくわくするものがない所に人は住む気になるでしょうか」
 小林さんも亀山紘市長に直談判した。2人の熱意に市側は「アートは被災者の心のケアにつながる」と賛同。15年7月に発足した実行委で小林さんと亀山市長が委員長、松村さんが事務局長に就き、RAFの実現にこぎ着けた。
 実行委事務局は来年、第3回本祭の開催を目指す。市内の経済人は、夏の風物詩の石巻川開き祭りを挙げ、「RAFは川開きと並ぶ代表的なイベントになる」と期待を寄せる。
 RAFを機に石巻への注目度は高まった。アート制作の拠点ができ、若手芸術家の移住が相次ぐ。「多くのクリエーターが集うまち」。2.0が掲げる理想にまた一歩近づいた。
 石巻をはじめ、交流人口を増やしたい地方都市に新型コロナウイルス禍が立ちはだかる。それでも松村さんは悲観していない。
 「コロナは震災以上の衝撃かもしれない。でも大変なときこそ前向きな何かが起きるチャンスになる」
 未曽有の事態を変革の機と捉え、挑戦を続ける。
(氏家清志)

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