<東北の本棚>ややこしい家、愛情確認

しくじり家族 五十嵐大 著

 著者である「ぼく」の家は「ふつうの家庭」の範囲には当てはまらないだろう。両親には聴覚障害があり、祖母は宗教にはまっている。ある日、伯母から、元ヤクザだった祖父が危篤との知らせが入った。帰郷の翌日、祖父は世を去り、ぼくは喪主を務めざるを得ない状況に。葬儀を済ますまでの慌ただしい数日間を中心に、それまで気が付かなかった家族の愛情を、苦いユーモアを忘れず描いたノンフィクションだ。
 ぼくにとって、家はいつもややこしい存在だった。子どもの頃は近所や学校で「大変ね」とワイドショー的興味がこもったまなざしを送られた。ふつうじゃない、おかしい家族と見られることの不安から、ぼくは、ふつうを擬態するようになった。社会人になると、誰も自分たちのことを知らない都会を目指し、故郷を飛び出した。
 時に家族へ暴力を振るう祖父をぼくは、好きになれなかった。そんな祖父の葬儀で喪主を務め、弔辞まで読ませられるなんて…。ところが、素直に泣きじゃくる年上のいとこや、苦しめられてきたはずの祖母が悲しむ姿を目の当たりにするうち、祖父なりの家族への愛情を認識させられる。
 祖母の宗教への傾倒もまた、母の障害を直したいとすがったため。誰もが精いっぱいの愛情を互いに注ぎ合ってきたのだ。ぼくはもう、ふつうを擬態せずに生きていけると感じている。
 全編を通して響いているのは「ふつう」って何だろうという問いだ。差別意識をぬぐいきれない多数派の物差しは必ずしも真実ではないと、教えてくれる。
 著者は1983年生まれで塩釜市出身のフリーライター。飲食店員などを経て編集業界入りし、社会的マイノリティーに焦点を当てた取材活動をしている。(菅)

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