<東北の本棚>財団設立の理念 詳しく

斎藤報恩会と東北帝国大学 吉葉恭行 米沢晋彦 著

 1923年設立の財団法人「斎藤報恩会」(2015年に解散)は、当時画期的だった民間による研究費助成に取り組んだ。筆者は、石巻市の大地主、第9代斎藤善右衛門(1854~1925年)が私財を投じた財団を巡る1次資料をひもとき、会設立の思想的背景や東北帝国大の研究者が中心となった運営方法などを明らかにした。

 第1章では、財団設立の狙いが記されている「翁(おきな)の財産処分法に関する訓示書」などを読み解く。訓示書では、金は天からの授かり物とする考えが示され、財産を人類発展のために使うよう訴えている。著者が大いに注目しているのが、過大な財産を子孫に残すのは家運の衰退を招くという斎藤の考えだ。財産の一部を公共に提供することが家人の発奮につながるとした哲学を詳しく紹介している。

 第2章以降では、研究費助成の内容や助成ルールなどを詳述している。強調されていることの一つが助成金は年度内に使い切る必要がなく、翌年度以降に繰り越すことができることだった。こうした柔軟なルールを巡り著者は、日本学術振興会で2011年度に導入された科学研究費助成事業の基金化と目的が同じだと説明し、報恩会の先見性を指摘している。

 関係資料の掲載も充実している。1922~45年度の報恩会事業報告書などを基に作成した研究費補助一覧をみると、補助対象が広く東北6県にわたっていることが分かり、財団が東北地方の学術振興に貢献したとする本書の内容を確認できる。

 著者は共に国際文化が専門。吉葉氏は岡山大大学院教授、米沢氏は秋田工業高専准教授。共著書に「帝国大学における研究者の知的基盤-東北帝国大学を中心として」がある。(安)

 東北大学出版会022(214)2777=3520円。

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