河北春秋(5/3):東北は桜前線が早々と通過し、若葉の季節を…

 東北は桜前線が早々と通過し、若葉の季節を迎えた。北上市の日本現代詩歌文学館の前庭に立つ10本のイチョウも樹勢が増す。開館翌年の1991年から3年がかりで東京から移植され、今やシンボルツリーになった▼同館では開館30周年と東日本大震災の発生から10年に合わせて「大震災と詩歌」を開催中だ。東日本大震災や阪神大震災、熊本地震などの被災地に関係する詩や短歌、俳句、川柳の作家60人の直筆作品を来年3月13日まで展示している▼同展の白地のリーフレットに黒い線で描かれているのは、なぜか葉を落とした1本のイチョウ。少し傾けて光を当てると、理由が分かる。印刷技術の妙で、きらきらと多くの葉が浮かび上がってくる▼「寿命が長く、縁起の良いイチョウが茂る様子です。空白を使う点では詩歌に通じるのかもしれません」と館長補佐の豊泉豪さん(52)。隠れていたイチョウの葉は言葉のよう。一読しただけでは分からない作品に、作者の意図がにじんでいることもある▼大船渡市出身で5年前に亡くなった歌人の柏崎驍二(きょうじ)さんは、愛着のある前庭を<詩歌の森公園晴れて黄葉の銀杏は水のおもてを照らす>と詠んだ。何かと落ち着かないご時世、葉の色が少しずつ変わっていく季節の移ろいを感じながら暮らしたい。
(2021・5・3)

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