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津波の跡で 災害危険区域3167㌶―活用の道(3) 産業用地 雇用創出の器、各地に

2カ所の環状交差点が設置された「みそら工業団地」。奥に見えるのがカネフジ運輸の本社や倉庫

 整地された広大な土地を真新しい道路が区切り、事務所や倉庫が立ち並ぶ。東日本大震災前に住宅が密集していた東松島市大曲浜地区は、32社が立地する産業団地になった。

 震災の津波で壊滅的な被害を受け、住民は内陸の「あおい地区」に移った。市は移転元地に区画整理事業で産業用地を造成。区域全体を約2・5メートルかさ上げし、防潮堤と防災盛り土、避難道で津波防御を高めた。

<優遇制度が奏功>

 運送会社「カネフジ運輸」は2017年8月、本社を再建した。震災では事務所や車両25台などが流された。須藤弘三会長(75)は「荷主が集まる石巻工業港に近い。不安は少しあったが、津波が来たらとにかく逃げるというのが震災の教訓だ」と語る。

 市は土地の貸借料を26年度まで無償にする優遇制度を導入。近隣自治体からの進出もあり、約27ヘクタールの用地は9割が埋まった。災害リスクを敬遠した県外企業もあったが、市商工観光課の担当者は「完成区画から順次引き渡したことと、優遇制度が後押しした」と分析する。

 地区は「みそら工業団地」に名称を変えた。新たな「住人」となった立地企業は3月、連携を深めようと協議会を組織した。会長に就いた須藤会長は「移転した元住民の思いも受け継ぎ、復興のシンボル的な団地にしたい」と力を込める。

 工業港を北側に回り込んだ石巻市釜地区にも新たな産業用地がある。境界を走る高盛り土道路の工事が今も続き、空き地が目立つ。

 市は移転跡地の上釜、下釜、湊西の3地区に産業用地を整備。現在までに完成した65画地のうち、分譲や賃貸が決まったのは6画地にとどまる。

 内陸の須江地区には復興事業で移転を余儀なくされた事業者向けに産業用地を設けた。完成を急ぎ、15年度には引き渡しを始めたことで企業の市外流出を抑止した。立地は順調で、28区画のうち残る1区画も契約交渉待ちの状態だ。

<誘致体制を強化>

 一方で、沿岸3地区の区画整理は長期間を要し、津波リスクが残る。民有地が混在するため、市有地の賃料を優遇することも難しい。それでも、居住が制限された港湾背後地では土地利用の選択肢は乏しく、産業用地化は「苦肉の策」(市産業推進課)とも言えた。

 ただし、雇用創出は定住人口の増加に必要で、用地は欠かせない器だ。市は津波被災時にも事業を継続するための設備投資を助成するなどし、誘致体制を強化する。担当者は「企業を呼び込む制度を用意していく」と打開策を練る。

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