<東北の本棚>庶民に温かいまなざし

とうほく民話散策/佐佐木邦子 著

 著者は2016年に67歳で病没した仙台市出身の小説家。民話の世界を創作の土台としてきた。本作には、東北各地で聞き集めた物語を収録。先人の人生訓がちりばめられたお話は笑いあり、涙あり、時に恐怖あり。物語の基となる農村や庶民の暮らしに、著者の温かいまなざしが注がれる。

 前半は民話を題材としたエッセーだ。おじいさんが吹雪の中、全く売れなかった笠(かさ)と自分の笠を路傍の地蔵様にかぶせてあげる「笠地蔵」。もはや正月を越す食糧もなく、せめておばあさんと安らかにあの世に行かせてほしいというおじいさんの秘めた願いを、著者は感じ取る。

 栗原市で聞いたという「雪わらし」。雪の精が姿を変えて現れた童女が、かわいがってくれた老夫婦の愛情に応えるため、消えてなくなるのを承知で2人の言い付けに従い風呂に入る。「雪女」しかり冬を取り扱った話は切ないものが多い。雪に深い郷愁を抱く著者の考察に、東北人なら共感を覚えずにいられない。

 後半「東北の昔ばなし」は、著者がラジオ番組のための脚本に仕上げた44話。痛快なのが、宮城県丸森町の「七日七晩飛び続けた玉」。村人から年越しの獲物の猟を頼まれた鉄砲名人の正作。見事シカを仕留めた弾丸がなんと、谷を挟んであっちの杉とこっちの松を何日も跳ね返り、感謝されるはずの正作は命がけの後処理を命じられる。何とか弾丸を落とすことに成功すると、後には勝手に撃たれた獲物の山があった。「のんびり構えろってごどっしゃ」と締めくくられる。鉄砲名人、かっこよすぎる。

 言霊の存在を信じ、古老の話に耳を傾け続けた著者。方言でつづられている珠玉のファンタジーの数々を、ぜひとも声に出して読みたい。(浅)

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 河北新報出版センター022(214)3811=1540円。

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