<東北の本棚>水難現場を陰で支える

潜匠/矢田海里 著

 海難事故や入水自殺の現場を陰で支える民間の潜水士。その一人、名取市で建設業「潜匠建設」を営む吉田浩文さんは救助や遺体引き上げに従事し、東日本大震災では行方不明者の捜索に尽力した。幾多の死と向き合ってきた半生に、ノンフィクション作家が迫った。

 吉田さんは1967年、宮城県女川町生まれ。水中土木工事業の傍ら、96~2004年に仙台港などでの不明者捜索に携わった。バブル崩壊後に急増した自殺に対応するため、警察などの依頼でサポート役を担ったという。

 著者は震災後に吉田さんと出会い、9年にわたりインタビューを重ねた。臨場感ある捜索の描写に引き込まれる。薄暗い海底や沈んだ車体、潜水士の呼吸音。死者の具体的な様子に読み進めるのがつらい場面はあるが、不明者を捜し出し、「命の終わり」に立ち合う姿を抑えた筆致でつづった。

 捜索費用を巡る問題が興味深い。民間人が捜索に加わると日当や重機使用料などが発生するのに、支払いに難色を示す遺族が多いそうだ。吉田さんに対する未払い金は4000万円に膨らみ、当時経営していた会社や個人の破産の一因になったという。

 本書は公的機関の関係者らが吉田さんの「赤字を織り込み済みで」捜索を続けたと指摘。個人の物語はそのまま進むが、もどかしさも残る。体制の不備にさらに切り込んでほしかった。

 多くの死が描かれる中、最も印象に残るのは行方不明者の家族が抱える苦しみだ。震災後、吉田さんは全国のダイバー仲間に呼び掛け、不明者を捜索。復旧や復興が進む被災地で、家族たちの「終わりのない葛藤」に寄り添う。

 一人の潜水士の生きざまを綿密な取材で浮き彫りにした。後半に吉田さんを慕う若者たちが登場し、未来への希望を感じさせた。(和)

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 柏書房03(3830)1891=1980円。

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