河北春秋(9/11):超高層ビルの谷間を男が歩く。高さ400メ…

 超高層ビルの谷間を男が歩く。高さ400メートル超。足元は幅2センチのワイヤ。風で揺れるが、少しも怖くない。「ここには、ぼくひとり。なんて幸せで、自由なんだろう」▼米絵本作家モーディカイ・ガースティンさんの『綱渡りの男』。1974年、ニューヨークの世界貿易センター・ツインタワービル。屋上間にワイヤを張り命綱なしで渡ったフランスの大道芸師フィリップ・プティさんを描いた。大胆な構図と詩情豊かな色使い。天空の冒険へいざなう▼ノートルダム寺院など世界で綱渡りを敢行したプティさん。タワー挑戦がドキュメンタリー映画になり語った。「なぜやるのかって? 理由がないから美しいのさ。言葉では説明できない衝動に駆られるんだ」▼米中枢同時テロから20年がたつ。日本人24人を含む2977人が亡くなった。男が夢を遂げ沸いたタワーは凄惨(せいさん)な悪夢に覆われた。身元確認ができない犠牲者はまだ多いとの記事に胸がふさがる▼本の結び。空に溶け込むツインタワーで綱を渡る小さな人影が。「人々の記憶のなかには、ふたつのタワーは空にきざみつけられたように、くっきりと残っています。プティがタワーのあいだを歩いた、あのすばらしい朝のことも」。すがすがしくも切ない1ページ。平和への祈りが伝わる。(2021・9・11)

関連タグ

河北新報のメルマガ登録はこちら

企画特集

先頭に戻る