社説(9/15):ネット中傷の厳罰化/乱用防ぐ歯止めが必要だ

 インターネット上には、匿名によるおびただしい数の誹謗(ひぼう)中傷が日々書き込まれている。新型コロナウイルス下でも、感染者に対する悪質な投稿が後を絶たない。
 ネットの中傷対策として、侮辱罪の罰則を強化する法改正へ向けた議論が本格化する。あす16日に開かれる法制審議会(法相の諮問機関)総会に諮問される。
 「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」の法定刑に、「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加する案を検討する。それに伴い、公訴時効も1年から3年に延長される。
 現在の侮辱罪はネットの普及を想定していない。ネット上の誹謗中傷は看過できない状況にあり、対策の強化は急務だ。
 だが、一律の厳罰化には危険性がはらむことにも留意したい。権力者が悪用し、自身に批判的な言論を告訴する可能性があるからだ。誹謗中傷と正当な批判の線引きには難しいものもあり、恣意(しい)的に判断されることがないとも言い切れない。表現の萎縮にもつながりかねない。
 法制審では、乱用にいかに歯止めをかけるかを含め、幅広い視点から慎重な議論が望まれる。
 侮辱罪の厳罰化を求める声は、テレビのリアリティー番組に出演していたプロレスラー木村花さん=当時(22)=が昨年5月に死去したのを機に高まった。会員制交流サイト(SNS)で中傷した男性2人が侮辱罪でそれぞれ科料9000円の略式命令を受けたのに対して、罰則が軽すぎると疑問の声が上がった。
 法務省によると、プライバシー侵害などネット上の人権侵害に関する相談のうち、昨年、人権侵犯事件として処理したのは1917件。10年前の624件から3倍超に増えた。ただ、泣き寝入りも多いとされ、処理件数は「氷山の一角」とみられる。
 ネットの中傷対策としては、投稿者情報の開示を容易にする新たな手続きを盛り込んだ改正プロバイダー責任制限法が成立。2022年中に施行される見通しだ。
 投稿者情報の開示の円滑化に厳罰化が加わることで、抑止効果を期待する声はある。だが、それだけでは十分とは言えないだろう。SNS事業者による投稿の監視、削除といった自主規制の強化や、官民連携による相談体制の拡充などの総合的な対策が求められる。
 ネットの誹謗中傷に関して、日本は被害者を守るための法整備が不十分だった。利便性を重視する一方で、情報通信技術(ICT)リテラシーの教育が遅れていた感は否めない。
 木村さんのような不幸な事案を繰り返さないためには、厳罰化を専門家や国会に委ねるだけでなく、並行して、社会全体の問題として議論を深めていく必要がある。

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