社説(2/20):「内密出産」の法制化/母子守る方策 議論急ごう

 法制度の不備が指摘される中、熊本市の慈恵病院が踏み切った国内初の「内密出産」は現行法の規定を例外的に適用し、赤ちゃんの戸籍が作成される見通しになった。

 法務当局が親の知れない「棄児」と同様の対応が可能という判断を示したことは一歩前進と言えるが、戸籍制度の理念に照らせば、不自然さは否めない。

 緊急避難的な対応に終始し、喫緊の課題から目をそらすことは許されない。望まぬ妊娠に悩む女性と生まれてくる赤ちゃんの命と安全を守るため、法制化に向けた議論を急ぐ必要がある。

 「内密出産」は慈恵病院が2019年、ドイツの制度を参考に独自に導入した仕組み。身元を明かさず出産できるようにすることで、医師や助産師の立ち会いがないまま、自宅などで子どもを産む「孤立出産」を防ぐ狙いだ。

 今回はこの仕組みの利用を望む10代女性が昨年12月、病院にのみ身元を明かして出産。病院は今月4日に事実関係を公表し、関係機関と法的な課題について調整を重ねていた。

 病院は当初、母親の名を記載せずに出生届を出す準備を進めたが、身元を知りながら記入しない場合、刑法の公正証書原本不実記載罪に問われる可能性が指摘されたため、提出を保留し、熊本地方法務局の見解を求めた。

 これに対し、法務局は刑法に抵触するかどうかは「捜査機関が個別に判断することで回答できない」とする一方、「出生届を提出しなくても首長の職権で戸籍の記載が可能」と指摘。子の出生日や出生地の情報を市区町村に提供するよう求めた。

 病院側は現在、法務局が示した方法に従い、熊本市と協議を進めている。市は現行法の範囲内で病院と連携して母子を支援するという。

 戸籍法は親が分からない場合、自治体の首長が名前や本籍を決め、赤ちゃん1人の戸籍を作成することを認めており、法務局はこの規定を適用できると判断したようだ。

 ただ、実際には女性の身元情報は一定の年齢に達した子が出自を知ることができるよう病院側が保管している。出自を知る権利は、日本も批准している「子どもの権利条約」に明記されていることも重くみるべきだろう。

 慈恵病院は07年に、親が育てられない乳幼児を匿名で受け入れる国内初の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を開設。昨年3月までに保護した159人のうち、半数以上が孤立出産だった。

 母子ともに命の危険にさらされる「孤立出産」を何としても防ぎたい-。そんな切実な思いから生まれたのが「内密出産」に他ならない。

 いつまでも病院任せにしておける問題ではない。安全な出産と安定した養育の確保のため、国は法整備に向け、責任を果たすべきだ。

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