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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>日本の国はいつできたの?

4~5世紀の東アジア

【東北学院大博物館学芸員 佐藤敏幸氏】

第1部 石巻地方を考古する

<古墳時代にヤマト国家>

 私たちの住む「日本」という国はいつできたのでしょう。

 大陸から海を渡ってきた旧石器人は獲物を求めて移動する生活でした。気候が温暖になると、縄文人は定住してムラをつくり狩猟・採集によって生計を維持します。大陸から米作りが伝わると水田による栽培・生産生活に入ります。水稲耕作は安定して食料を確保できると同時に、春の田起こし・田植えから水の管理、夏の雑草の管理、秋の収穫、次の作物のための準備まで一年を通して水田耕作に労働力を費やすようになります。

 端的に言うと水田耕作を行っている限り自分たちの田から離れられない生活に変わってしまったのです。収穫した米は高床倉庫に蓄えられます。やがて生産のために労働をする人と管理する人に分かれて階級が生まれます。弥生時代後半には各クニに「生口」、「奴婢」と呼ばれた多数の奴隷がいたことが中国史書に記載されていて、階級社会ができたことが分かります。

■弥生以降は倭国

 弥生時代から古墳時代、日本は「倭」と呼ばれていました。『漢書』地理誌、『後漢書』東夷伝、『魏書』東夷伝(魏志倭人伝)によると弥生時代の倭国は100余りのクニから30余りのクニに統合され、壱岐国や対馬国、伊都国、邪馬台国などのクニが同盟関係を結んだ邪馬台国連合を形成したと考えられます。その連合の女王が卑弥呼でした。しかし、クニグニの力の差はあまりなく連合の結びつきは弱かったと考えられます。中国史書にみえる倭国の記事は西晋の266年の邪馬台国の使節派遣記事を最後にしばらく途絶えます。

 日本の内部では邪馬台国連合の数十年後、畿内(奈良・大阪)に前方後円墳が造られます。前方後円墳の時代です。前方後円墳は、畿内と同盟関係を結んで連合した臣下として造ることが認められた形とされ、お墓の中には副葬品として大王から下賜された鏡や大刀などが納められています。畿内に全長200メートルを超える大型前方後円墳が集中し地方に行くにしたがって相似形の中、小規模の前方後円墳が分布することから、畿内の大王を頂点として地方の王(首長)が服属して階級秩序ができたと考えられます。これを「前方後円墳体制」と呼びます。弥生時代には地域ごとに特徴の違う土器を使っていましたが、古墳時代に入ると共通の斉一性のある土師(はじ)器が使われ始めます。考古学では東北南部から九州に至るまで前方後円墳が造られ、斉一性のある土器が使われたことから、広域の国家が成立したと考えます。この国家をヤマト王権(ヤマト国家)と呼んでいます。

■宋の冊封受ける

 中国の史書に再び登場するのは古墳時代中期になってからです。420年に中国南朝に宋が建国し、421年から479年まで讃、珍、済、興、武の5人の倭王が11回も使者を送ったことが『宋書』夷蛮伝、本紀、『南斉書』夷蛮伝に記されています。当時の朝鮮半島は高句麗、新羅、百済、伽耶が緊張状態で、高句麗、新羅、百済は宋に朝貢し臣下として認めてもらい冊封を受け、地域の安定を求めて将軍職を皇帝からたまう政策を展開します。倭国も自国と朝鮮半島での地位の確約を求めて冊封を受け将軍職をたまう戦略を執ったのです。将軍職のランクでは朝貢が後手に回ったため、上位の将軍職は認められませんでしたが、朝鮮半島への足掛かりはでき、高句麗と戦闘状態に入ることもありました。

 479年に倭王武(雄略天皇)が南斉に使者を送ったのを最後に、中国の冊封から離脱し、再々度、中国に使者を送ったのは推古天皇による遣隋使派遣(600年)でした。

■天武朝に「日本」

 弥生時代から古墳時代に「倭」と称していましたが、いつから国号を「日本」としたのでしょう。607年の小野妹子の遣隋使派遣で「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや」という文書を送ったのは有名な話ですが、そのころはまだ、「日出ずる処」ではあっても「日本」と称していません。日本書紀と古事記でもその記載が違っています。中国「唐」の記録によると、702年の遣唐使の記載から「日本」と書かれているので、律令制が整う689年の「飛鳥浄御原令」ができる天武天皇の頃と考えられています。同じ頃、「大王」から「天皇」に変わったようです。

 倭国時代の石巻地方は倭国の一員だったのでしょうか?その話は次回以降で。

倭王の中国王朝への使節派遣(紀元前1~5世紀)

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