安倍元首相撃たれ死亡 暴力への怒り自由守る力に 社説(7/9)

 民主主義そのものに向けられた凶弾である。政治的な考えや立場の違いを越えて怒りを共有し、言論の自由を萎縮させない決意を新たにしなくてはならない。

 安倍晋三元首相が奈良市での街頭演説中に銃撃され、死亡した。奈良県警が殺人未遂容疑で逮捕した元海上自衛隊員の男(41)は「安倍氏に不満があった」などと話しているという。

 詳しい動機の解明はこれからだろうが、参院選の期間中であることを考えれば、民主政治への暴力に他ならず、どんな理由があろうと許すことはできない。

 ロシアのウクライナ侵攻で明らかになったのは、言論の自由がなく、公正な選挙が実施されない権威主義的な体制は権力者の暴走を許し、国内外に取り返しのつかない惨事をもたらすということだ。

 民主主義国が政治活動に最大限の自由を認めるのは、政府を監視する国会の機能を高め、国民の権利と多様な意見を尊重するためだ。

 たとえ、その主張が受け入れがたいとしても、政治家個人への攻撃は民主主義の根幹を揺るがし、公正な選挙の価値を毀損(きそん)する愚かな行為であることは言うまでもない。

 今回の参院選は、世界中で「民主主義の危機」が叫ばれる中で実施されていることも忘れてはならない。

 民主主義国と権威主義国の数は拮抗(きっこう)しているものの、権威主義の下で暮らす人々は世界人口の約7割に当たる約54億人に達し、10年前に比べ2割以上増加したという。

 中国のプロパガンダもあって、国民の権利を大幅に制限できる権威主義国の方が、感染症対策や経済成長に成功しているとの見方が広がっているためだ。

 「法の支配」など普遍的な価値を掲げる日本で起きた今回の事件が、民主主義の退潮を印象づけるようなことがあってはならない。与野党、政府には日本の民主主義の健全性を示す対応が求められる。

 参院選では、連続在職日数が歴代最長となった安倍政権の功罪も問われている。

 何を受け継ぎ、何を改めるか。事件の衝撃が収まらない中にあっても、有権者としては可能な限り冷静な判断を心掛けたい。

 アベノミクスは異次元金融緩和で円安・株高を演出したものの、現状では「悪い物価上昇」を招くなど完全に裏目に出ている。成長戦略は見るべき成果が上がらず、金融政策の正常化に向けた「出口戦略」も描けないままだ。

 中国、ロシアの脅威が強く意識されるようになった中、集団的自衛権の行使に道を開いた安全保障関連法制や、最近の核共有論の提唱などには賛否があろう。

 さまざまな欠陥を抱える民主主義国であっても、暴力などに屈しない主権者でありたい。憤りを政治に参加する勇気と覚悟に変えたい。

関連タグ

河北新報のメルマガ登録はこちら

企画特集

先頭に戻る