河北春秋(8/9):長崎市の中心市街地にある浦上地区は、昭和…

 長崎市の中心市街地にある浦上地区は、昭和初期までカトリック信徒の多い一集落だった。1945年8月9日午前11時2分。異様な閃光(せんこう)が走り、その地区は原爆の爆心地となった▼長崎出身の芥川賞作家青来有一さんの連作短編集『爆心』の「蜜」に登場する老人の言葉を引く。「あの時に、主はこの空にいなかったのだろうな」「主は人が愚かしい真似(まね)をしようとする時、ブレーキを踏んでくれるはずなんだが」▼爆心から放出された爆風は、放射状に地上の物を傾け倒した。死者7万3884人、重軽傷者7万4909人。原爆の直下、地上の表面温度は3000~4000度に達したとの説もある。黒く焦げ、損傷が激しく身元を確認しようがなかった遺体は約2000体にも及んだ▼同じく長崎出身で芥川賞作家の林京子さん(1930~2017年)は14歳の時、原爆に遭った。語り部を自任し、結婚や出産、子育てなどの局面で引き起こされる内部被ばくの恐怖と向き合いながら人類が犯した罪への怒りを書き続けた▼「原爆投下について『神の怒り』などと宗教や神を持ち出す人もいますが、私は8月9日は人間の問題だと思っています。私があの日見たものは、人間の苦しみ以外の何ものでもなかった」。林さんの生前の言葉である。(2022・8・9)

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