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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>倭国の北縁と東アジア

4~5世紀の東アジア
古墳時代前期北限地域の主要な古墳と集落
日本書紀による天皇系図(一部)

【東北学院大博物館学芸員 佐藤敏幸氏】

第2部 太平洋と北上川が育んだ文化と交流

<他国の情勢に対応開始>

 新金沼遺跡、田道町遺跡の平野部から須江糠塚遺跡、関ノ入遺跡の丘陵上や北上川・迫川をさかのぼって登米市佐沼城跡に集落が移っていきました。さらに迫川支流に当たる一迫川上流の栗原市築館からも丘陵上から入ノ沢遺跡という古墳時代前期の集落が見つかっています。

■集落に防御性も

 入ノ沢遺跡は河岸段丘脇の丘陵上部に濠と柵を巡らせ、その内部に竪穴住居群が配置されたもので、防御を備えた山城をイメージさせる構造です。47軒発見された竪穴住居は一辺が5~6メートルの方形で、中には8メートルを超えるものもあります。その竪穴住居からは日常使う土師器と共に銅製の鏡が4面、琴柱形石製品や勾玉、管玉、棗(なつめ)玉、丸玉、臼玉、ガラス玉、鉄製品、赤色顔料、布片などが出土しています。銅鏡や石製の装身具、赤色顔料などは前方後円墳クラスの古墳の副葬品に用いられたり魔よけに振りかけられたりするもので住居跡から出ることは極めて珍しいものです。

 北上川河口から迫川流域が古墳時代前期集落の北縁ラインに当たります。入ノ沢遺跡はヤマト王権の北縁に位置する遺跡ですから、その北に住む続縄文文化の人々とあつれきがあって防御性の強い集落をつくったと考える研究者もいます。一方、同じ北縁でも東端に位置する石巻地方の集落は濠や柵のような防御施設はありません。むしろ新金沼遺跡から出土した続縄文土器のように、北海道の人々と交流する融和な社会をつくっていたのではないでしょうか。

■日本武尊出征か

 古墳時代前期は3世紀後半から4世紀に当たります。その頃の確かな記録はありません。「日本書紀」をひもとくと第14代の仲哀(ちゅうあい)天皇の后(きさき)であった神功(じんごう)皇后の記事に「七支刀(しちしとう)」が献上されたとあり、朝鮮の百済の記事と合わせると「七支刀」は西暦369年に製作され、372年に倭に献上されたと考えられています。4世紀後半のことです。そう考えると、3世紀後半から4世紀は第12代景行(けいこう)天皇の頃から第15代応神(おうじん)天皇の頃ではないかと個人的には考えています。

 景行天皇の時、「日本書紀」景行天皇二七年二月条に東国を視察してヤマトに帰還した武内宿祢(たけうちのすくね)が「東夷(あずまのひな)の中に、日高見国有り。其(そ)の国の人、男女並に椎結文身(ついけいぶんしん)し、為人(ひととなり)勇悍なり。是総べて蝦夷(えみし)と曰ふ。亦土地(くに)沃壌にして曠(ひろ)し。撃ちて取るべし。」と報告した記載があります。北上川の古称である「日高見」川の流れる国が「日高見国」と考えられるので、石巻地方のことかもしれません。その土地が肥沃なので戦って奪い取れということですから、古墳時代に人が土地開発にやって来たことをにおわせる記事でもあります。

 また、景行天皇の皇子に日本武尊(やまとたけるのみこと)という人物がいます。彼は南は南九州の熊襲(くまそ)を、北は関東・東北の蝦夷を征討した勇敢な人物として登場します。「日本書紀」景行天皇四十年十月条に日本武尊の東征の物語に竹水門(たけのみなと)(後の陸奥国府の港となる国府津、現在の塩釜市香津町あたりか?)で蝦夷と一戦を交え「……蝦夷既に平ぎ、日高見国より還りて。西南常陸を歴て……」とあります。日本武尊も石巻地方に遠征に来たかもしれません。

■朝鮮半島に出兵

 3世紀前半の邪馬台国の記事以降、521年の倭の五王の時代まで中国に朝貢した記事はありませんが、4世紀の倭の動向は朝鮮半島の国々の資料に出てきます。朝鮮半島の記事と「日本書紀」の記事に共通するところをみると、4世紀後半、第14代の仲哀天皇の后の神功皇后の時、倭は海を渡って新羅に2度出兵したことが書かれています。倭の軍は1度目に陸戦で進軍するも最終的に高句麗軍の騎馬隊に敗れたようです。当時、日本には馬がいませんでしたから騎馬隊に驚いたことでしょう。2度目は海戦で戦ったようです。このような半島への出兵は、高句麗と戦争状態にあった百済との同盟によって行われたものと考えられます。

 古墳時代前期の日本は国の範囲を模索しながら東アジアの情勢に対応し始めた時期でもありました。その中で倭の北縁の地域に当たるのが石巻地方であったのです。

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