ツール・ド・東北 3年ぶり現地で走行 1351人出場、つながる輪
東日本大震災で被災した県沿岸部を自転車で巡る復興支援イベント「ツール・ド・東北2022」(河北新報社、ヤフー主催、三陸河北新報社など共催)は18日、石巻市や女川町などを巡る走行イベントを開催した。新型コロナウイルスの影響で走行イベントは3年ぶり。好天にも恵まれ、1351人のライダーが浜風を浴び、被災地の今を感じながらコースを駆け抜けた。
走行イベントは石巻市総合運動公園を発着点とする2コースで展開。午前6時半に北上フォンド(100キロ)がスタート、時間を空けて女川・雄勝フォンド(65キロ)のライダーがペダルを踏み込んだ。
両コースの途中にある石巻市の震災遺構大川小には多くのライダーがコースを外れて立ち寄った。展示施設「大川震災伝承館」や被災した校舎を見学するなど、それぞれの形で震災を胸に刻んだ。
北上フォンドに参加した東京都の会社員竹内剛さん(55)は「ぼろぼろになった校舎を見て、改めて被害の大きさに驚かされ、信じられない気持ちになった。次は中学生の息子と参加し、震災のことを伝えたい」と話した。
ライダーは休憩所となるエイドステーションで、海産物など地元の味を堪能。地域住民やボランティアらと親睦を深めた。横浜市の救急救命士福嶋忍さん(54)は「マスク越しでも地域の声援が力になった。自然も多く楽しめた」と喜んだ。
石巻市総合運動公園では県の指定無形民俗文化財「寺崎はねこ踊り」や子どもたちのダンスも会場を盛り上げた。
ツール・ド・東北は2013年に始まった。順位やタイムを競わないファンライド方式が魅力の一つで、9回目となる今回は、新型コロナ対策で規模を縮小して開催した。
「頑張って」「お帰り」住民の声援、背中押す
コースの沿道では、近隣住民らが小旗やうちわ、大漁旗でライダーたちを歓迎した。「いってらっしゃい」「頑張って」「お疲れさま」と声をかけ、力走を後押しした。
第1回の開催から欠かさず沿道に立っているという石巻市沢田の主婦日野和子さん(80)は、参加者が目の前を通るたびに笑顔で手作りの小旗を振った。「応援するのが大好きで、孫と合作した旗を持ってきた。遠方から来てくれたライダーの皆さんと交流できてうれしい」と話した。
女川町のエイドステーション近くでは、町や町観光協会の関係者らが大漁旗を振って迎えた。飛び入り参加した横浜市の小学校教諭後藤奈津子さん(49)は、東日本大震災のボランティアをきっかけに何度も町内を訪れている。「女川の大ファン。来るといつもお帰りと言ってもらえるので、ライダーにも同じように声をかけた」と笑顔だった。
石巻市雄勝町水浜地区では地元漁師らの大漁旗約30枚が掲げられた。地域住民らも集まり、ライダーたちに声援を送ったり手を振ったりして応援した。
地区の主婦(73)は「歓迎のため、イベントの際には毎回掲げている。雄勝に足を運んでくれるのが地元の活力にもなる」と話した。
新ソフト導入、走行位置を常時把握 「一緒にレース」体感
走行イベントには今回、パソコンやスマートフォンでライダーの走行位置をリアルタイムでデジタル地図上で知ることができるソフトが初めて導入され、話題を集めた。参加ライダーの8割を超す約1200人がスマホにアプリを登録して臨んだ。全国どこからでも各ライダーがどこを走行しているかが分かり、家族が画面を見て応援したり、ライダー同士が仲間の状況を把握したりした。
ソフトはデジタル地図開発のマップボックスジャパン合同会社(東京)が制作。カラー3D映像地図上に、登録した走者のアイコンが表示される。アイコンは愛称と顔写真やお気に入りのマークなどで設定。地図は縮尺自在でコース全体や地区ごとの詳細な情報を選んで表示できる。走行速度なども示される。同社の社員8人が自転車にカメラを搭載して走行した映像もリアルタイム配信された。
石巻市総合運動公園の特設ブースでは大型モニターに地図を映し出した。仲間を応援していた50代男性は「純粋にレースを見る楽しみもあるし、仲間がスマホで撮影した写真と、短文を掲載してくれるので、連帯感も生まれる」と話した。
広報担当の山家千晶さんは「万石浦など、それぞれのコース近くにある石巻地方を代表する場所の情報も見られるようにした」と話す。
今後、ライダーらの意見を反映させ、よりよいソフトを目指していく。