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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>古墳時代中期の日本

石巻市桃生袖沢の袖沢古墳群。写真左手の小高い所に古墳があった。現在は畑と水田になっている
東松島市大曲の五十鈴神社古墳。古墳の上に社殿が鎮座している
東松島市上下堤の上下堤古墳群があったと伝わる場所。現在は整地され地点は不明となっている
石巻地方の古墳時代中期(5世紀)の古墳と集落遺跡の位置

【東北学院大博物館学芸員 佐藤敏幸氏】

第2部 太平洋と北上川が育んだ文化と交流

<石巻地方に円墳>

 古墳時代前期(3世紀後半から4世紀)に石巻地方から登米、栗原地方にかけて古墳時代の集落がつくられ、それよりも北の続縄文(ぞくじょうもん)文化との境界となりました。続く古墳時代中期(5世紀)も古墳文化は継続して発展していきます。

■大陸から新技術

 古墳時代中期は奈良や大阪のヤマト王権の中心地では仁徳天皇陵(大仙古墳)のような巨大な前方後円墳が造られた時代です。朝鮮半島から各種の技術を身に付けた渡来人(とらいじん)を招き入れ、新しい技術や文物がもたらされました。そのうちの一つが武具、馬具の鉄製品です。古墳の副葬品にも甲冑(かっちゅう)や馬具が多く含まれるなど大きな変化があります。百済(くだら)の要請に応じて古墳時代前期後半に朝鮮半島に出兵した際、高句麗の騎馬戦術に驚いた倭の軍はその後、朝鮮半島から馬と騎馬の道具を取り入れていきました。

 もう一つは須恵器(すえき)という焼き物を製作する技術の導入です。須恵器は、登窯(のぼりがま)で還元焔(かんげんえん)焼成した硬質で青灰色の焼き物です。それまでは土師器(はじき)と呼ばれる野焼きで作った肌色の土器を使っていました。土師器は集落内で作ることができますが、須恵器は窯を築き粘土を選び、ロクロを使い、多量の薪を集め、3日3晩夜通しで窯を燃やし続けて1200度まで温度を上げて焼き、頃合いをみてふたをして還元する技術で、専門の工人しか作れません。この工人をヤマト王権の近隣に移住させて新しい焼き物を作らせたのです。

■生活様式に変化

 その他にも、カマドの導入が挙げられます。カマドと聞いてピンとくるのは昭和30年代生まれの人まででしょうか。昔はどの家にも土間にカマドが付けられ薪でご飯を炊いたり、お湯を沸かしたりしていたものです。現在のキッチンに当たるものです。古墳時代中期の住居の壁にカマドが付設されるようになります。この住居構造の変化によって、住居の真ん中の炉から壁際に台所が移動しました。台所が移動すると食事を取るための個人個人の器が必要になります。これによって土器の種類と数が飛躍的に増加していきました。

 このように帰化人のもたらした新しい技術はヤマトの人々の生活スタイルをも変化させることになったのです。

 ところで古墳時代中期に前方後円墳が巨大化するといいましたが、東北地方では古墳は巨大化せず、むしろ規模を縮小していったようです。しかし古墳文化は前期の境界域であった宮城県域を飛び越えて岩手県南部の胆沢地方にまで広がります。日本最北の前方後円墳は奥州市胆沢地区の角塚(つのづか)古墳です。角塚古墳の周囲には集落も営まれていたことが分かっています。

 石巻地方では前方後円墳は発見されていませんが、石巻市桃生の袖沢(そでさわ)古墳群、東松島市大曲の五十鈴神社古墳、上下堤の上下堤古墳群という円墳が造られていました。太平洋岸地域では石巻地方が古墳の築造された北限地域に当たります。そのうち現存する五十鈴神社古墳は直径20メートルほどの円墳で古墳の上に神社の社殿が鎮座しており、高さは1・5メートルほど遺存しています。元々はもっと高さのある古墳だったと思われますが、神社を建てる時に削られてしまったようです。首長の遺体を納めた棺も削られてしまったかもしれません。五十鈴神社の周りから、円筒埴輪(えんとうはにわ)や朝顔形埴輪の破片が今でも採集されます。

■未発見の可能性

 石巻地方には幾つかの古墳は残っていますが、古墳に葬られた王のいた集落はよく分かっていません。石巻地方の古墳時代中期の遺跡には、石巻市桃生の角山遺跡、東松島市小松遺跡、赤井遺跡、野蒜亀岡遺跡、里浜貝塚などがありますが、大規模集落は未発見です。

 ちなみに東松島市上下堤の上下堤古墳群は昭和前半には発見されていましたが、大曲の五十鈴神社古墳は昭和60年ごろ、石巻市桃生の袖沢古墳群は平成15年に見つかった古墳です。それまでは古墳と気付いていなかったのです。もしかすると、石巻地方にはまだまだ未発見の古墳が森の中に、林の奥に、神社の下に眠っているかもしれません。

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