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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>五松山洞窟遺跡

五松山洞窟遺跡の交流模式図(筆者作成)
五松山洞窟遺跡の位置(左)。右は洞窟内部の測量図(石巻市文化財調査報告書第3集「五松山洞窟遺跡」より)
五松山洞窟遺跡の出土遺物1(石巻市文化財調査報告書第3集「五松山洞窟遺跡」より)
五松山洞窟遺跡の出土遺物2(石巻市教委、石巻市博物館提供)

【東北学院大博物館学芸員 佐藤敏幸氏】

第2部 太平洋と北上川が育んだ文化と交流

<埋葬の謎 王権の政策か>

 推古天皇と聖徳太子が活躍した6世紀末~7世紀初め、石巻地方では再び集落がつくられ始めます。その頃のお墓の遺跡に五松山洞窟(ごしょうざんどうくつ)遺跡があります。この遺跡は一般的な後期~終末期古墳と違って海蝕(かいしょく)洞窟を利用したお墓の遺跡なのですが、その内容は驚くべきものでした。

■19体以上が出土

 五松山洞窟遺跡は石巻市湊字町裏山にあり、旧北上川河口東岸の牧山の粘板岩(ねんばんがん)丘陵裾(すそ)に位置します。海岸と河口の接点に当たる洞窟遺跡です。古代牡鹿地方では東寄りに位置します。遺跡の周囲には箱崎山(はこざきやま)洞窟や伊原津(いばらづ)洞窟など同様の洞窟遺構が数カ所分布しています。

 1982年、落石防止の工事中に遺跡が発見され、10月から発掘調査が行われました。調査の結果、洞窟内から弥生時代と古墳時代後期の遺構が見つかったのです。そのうち古墳時代後期の6世紀後半から7世紀初めには墓として利用されていたことが分かりました。洞窟には埋葬後集骨された19体以上の人骨とともに金銅荘圭頭大刀(こんどうそうけいとうたち)、金銅製耳環(じかん)、鉄製衝角付冑(しょうかくつきかぶと)、鉄鏃(てつぞく)、鹿角製弓弭(ろっかくせいゆはず)・弣(ゆづか)・刀子柄(とうすつか)・装身具、貝製腕釧(うでくしろ)、須恵器提瓶(さげべ)などの豊富な遺物が出土しました。

 まず注目されるのは古墳時代の人骨がまとまって出土したことです。出土した19体以上の人骨の分析から各年齢層の被葬者が男女の区別なく埋葬されていることが分かりました。中でも頭骨の形質の特徴からは関東地方の古墳時代人の特徴を持つ人骨と縄文時代人かアイヌに似た在地系の人の特徴を持つ人骨があり、関東地方の人と在地あるいは北方の人が一緒に埋葬されていることが明らかになりました。関東地方からの移住者がいたのです。

■副葬品、輝き今も

 注目すべき二つ目は古墳から出土するような副葬品です。金銅荘圭頭大刀、金銅製耳環、鉄製衝角付冑、鉄鏃の武器・武具・装飾品です。金銅荘圭頭大刀、金銅製耳環は金メッキの施されたもので、1400年前の金が今もさん然と輝いています。圭頭大刀とは柄頭(つかがしら)の形が鳥の頭のような形をしていて、6世紀後半から7世紀初頭ごろに生産されたものです。

 6世紀末以降は東日本の中・小規模古墳や横穴墓(よこあなぼ)からの出土例が多くあります。ヤマト王権の配下にあった中・小豪族に下賜(かし)されたものと考えられています。鉄製の冑は、横剥板鋲留式衝角付冑(よこはいたびょうどめしきしょうかくつきかぶと)と呼ばれる鉄板を鋲で留めて作られたもので、これも古墳からの出土例が多いものです。このことから五松山洞窟遺跡に葬られた人物はヤマト王権とつながりのある地方豪族と考えられます。ヤマト王権の範囲外の蝦夷の地に、王権の配下の人物が葬られていたのです。

 三つ目の驚きは骨角器や貝製品です。鹿の角や骨で作った弓弭、弣、刀子柄、装身具は古墳時代後期では出土例が少なく、太平洋岸の宮城県、福島県、神奈川県、和歌山県で数例あるだけです。貝製品には南方のオオツタノハ貝製品があります。オオツタノハ貝も縄文時代には日本列島太平洋岸の遺跡から多数発見されていますが、古墳時代のものは少なく、太平洋岸の千葉県房総半島や神奈川県三浦半島の遺跡に限られています。

■移住者、共に葬る

 四つ目の驚きは類似する洞窟遺跡の分布です。そもそも古墳時代後期に海蝕洞窟を墓に利用する遺跡は和歌山県紀伊半島、神奈川県三浦半島、千葉県房総半島に分布しています。同じような海蝕洞窟遺跡が茨城県や福島県を飛び越えて石巻で発見されたのです。

 房総半島や三浦半島に分布する海蝕洞窟遺跡と同じものが、なぜ遠く北に離れた蝦夷の地である石巻に存在するのでしょうか。また関東地方以西の中・小規模古墳の地方豪族に副葬される大刀や冑がなぜ石巻から出土したのでしょうか。関東からの移住者はなぜ石巻に移住し、在地の人あるいは北方の人と一緒に葬られたのでしょうか。たくさんの謎が残ります。大陸の隋帝国や朝鮮半島諸国の東アジアの緊張と関連してヤマト王権が執った政策の一つかもしれません。

 出土品は石巻市博物館常設展示室に展示してあります。実物を見て一緒に謎に挑んでみませんか。

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