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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>柵戸と牡鹿柵(上)

大化改新直後の石巻地方の主要遺跡
赤井官衙遺跡の範囲と7世紀中頃の移民集落の範囲
7世紀中頃の赤井官衙遺跡の集落と関東系土師器(『赤井遺跡発掘調査総括報告書I』より)
7世紀中頃の桃生城跡、関ノ入遺跡から発見された住居と関東系土師器(『桃生城跡X』報告書、『関ノ入遺跡』報告書より)

【東北学院大博物館学芸員・佐藤敏幸氏】

第3部 律令国家の形成と境界域の石巻地方

<関東からの移民、再出現>

■柵造り地域開発

 645年、飛鳥で乙巳(いっし)のクーデターが起こり、天皇を中心とする中央集権国家を目指す大化改新(たいかのかいしん)の大改革が始まりました。王権は大化改新直後にヤマトの勢力範囲のすぐ外側に交流拠点兼軍事基地として城柵(じょうさく)を造ります。日本海側では高志国(こしのくに)の北に渟足柵(ぬたりのさく)(647年)、磐舟柵(いわふねのさく)(648年)を造営したことが「日本書紀」に記載されています。

 王権配下の民を柵戸(きのへ)として移住させて柵を造り、地域開発などを行わせたと考えられます。柵戸の中から柵を統括する柵造(きのみやつこ)が選ばれました。在地の蝦夷(えみし)も服属して柵戸と共に生活する柵養蝦夷(きこうのえみし)と呼ばれる人も現れました。

 太平洋側では記録がありませんが、同じ政策が取られたと考えられます。太平洋側で最も拠点施設として整備された柵の遺跡が仙台市郡山官衙(こおりやまかんが)遺跡I期です。その北の大崎・石巻平野に丸柱を並べた塀で囲われた幾つかの遺跡が見つかっています。その一つが東松島市赤井官衙遺跡です。

 赤井官衙遺跡は「関東からの移住者を中心とした集落の形成、それを基にした郡家(ぐうけ)ないし城柵の造営といった変遷をたどることができるとともに、蝦夷の居住域内における官衙の実態や郡司(ぐんじ)をはじめとする官人(かんじん)の出自をたどることができる。律令国家成立期の東北経営を理解する上で重要な遺跡」として、2021年3月25日に国史跡に指定されました。まさに大化改新の改革の一つとして始まった対蝦夷政策が具体的に分かる遺跡なのです。

■調査はまだ2%

 赤井官衙遺跡は東松島市赤井字星場、本谷、照井中に所在し、その規模は東西1.7キロ、南北1.0キロの広範囲の遺跡です。1986年に本格的な発掘調査が始まり、150万平方メートルとも想定される遺跡範囲のうち、約3万平方メートルが調査されています。まだ2%しか調査が及んでいません。しかし、その重要性が認められて国史跡に指定されたように、古代石巻地方のみならず日本の古代史を語る上で欠くことのできない重要な内容が発見されています。この連載はしばらく赤井官衙遺跡を中心に据えてお話ししていきましょう。

 大化改新直後の7世紀中頃、それまで在地の小さな集落遺跡であった赤井遺跡の西端の地域に関東地方から多数の移民(柵戸)が送り込まれました。移民は方位を北に向けた一辺が5~9メートル前後の四角い竪穴住居を造ってまとまってムラをつくります。赤井遺跡の限られた発掘調査範囲から約20軒の住居が見つかっています。調査の範囲を広げると多数の住居が発見されるものと予想されます。石巻地方で拠点となる集落です。移民が使っていた土師器(はじき)と呼ばれる土器を見ると、千葉県の房総半島東部から茨城県にかけての特徴を持っていることから、当時の上総(かずさ)~常陸(ひたち)出身の人だと考えられます。ムラには元々住んでいた地元の蝦夷もいたようです。

■桃生や須江にも

 赤井遺跡ほど住居の数はありませんが、他にも石巻地方に移民の痕跡があります。石巻市桃生城跡、須江関ノ入遺跡、野蒜亀岡遺跡です。

 桃生城跡は奈良時代中頃に新しい城柵として律令国家が造営する遺跡ですが、その100年前にも移民が集落をつくっていました。2001年の発掘調査では5軒の竪穴住居が発見され、そのうち2軒が関東地方からの移民の住居と考えられます。

 須江丘陵の石巻広域水道企業団須江山浄水場地内の関ノ入遺跡からも1997年の発掘調査で移民の住んだ住居が1軒発見されました。東松島市野蒜亀岡遺跡では具体的な内容は分かりませんが、この時期の関東地方の特徴を持った土器が出土しています。これらの遺跡では、移民の住居は数も少なく継続して生活した痕跡がありません。

 一方、多数の移民の住居でムラを形成した赤井官衙遺跡は、次の時期に国家が指導して造った大規模施設に変貌していくのです。

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