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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>柵戸と牡鹿柵(中)

【赤井官衙遺跡から発見された材木塀の断面写真(『東松島市文化財調査報告書第21集赤井遺跡・飯田館跡』より:東松島市教育委員会提供)】
【赤井官衙遺跡から出土した北武蔵系の関東系土師器(「東松島市文化財調査報告書第20集赤井遺跡総括報告書II」より)】
赤井官衙遺跡の囲郭集落(7世紀後半)

【東北学院大博物館学芸員・佐藤敏幸氏】

第3部 律令国家の形成と境界域の石巻地方

<蝦夷と移民で協働集落>

 大化改新直後の7世紀中頃、東松島市赤井官衙(あかいかんが)遺跡に関東からの大量の移民(柵戸(きのへ))による集落が営まれます。

■囲郭集落の造営

 集落経営が安定すると7世紀後半、これまでの真北を基準とした集落を改め、真北から20度前後東または西に傾く遺構群を造営します。その構造は丸太材を隙間なく立てて並べた材木塀(ざいもくべい)と幅3メートル前後の大溝で囲まれる囲郭(いかく)集落と呼ばれるものです。

 囲郭集落はおおよそ遺跡の西半分(東西約800メートル)の範囲まで広がり、内部も材木塀で仕切られ、柱間(はしらま)が3間×2間規模(約20~30平方メートル)の掘立(ほったて)柱建物あるいは高床倉庫の小規模建物と一辺が3メートル前後の小規模竪穴住居が多数配置されます。建物や竪穴住居の方位は囲郭施設(塀や溝)に合わせて傾いた方位に規制されています。この囲郭集落で使われた土器は、前時期から継続する上総(かずさ)~常陸(ひたち)系譜の土器、在地土師器や静岡県湖西窯(こさいよう)で生産された須恵器(すえき)(湖西産須恵器)を主体としながら、少量の北武蔵(きたむさし)系(埼玉県北西部から群馬県)の土器が伴います。竪穴住居や掘立式建物の規模に差がなく、使われる土器も前時期と同様の土器を主体とすることから、在地で集落を営んでいた移民主体の人々が囲郭集落の造営、維持を担ったと考えられます。

■周辺は人絶える

 赤井官衙遺跡が囲郭集落に変わる時、石巻地方では周辺の遺跡から人がいなくなります。7世紀中頃に移住者がいた桃生城跡、関ノ入遺跡や7世紀前半から在地集落を営んでいた桃生町角山遺跡でもいったん集落が途絶えています。まるで赤井官衙遺跡の囲郭集落に取り込まれたように見えます。

 囲郭集落内部は大型の住居や倉庫はなく均一な建物で構成されていて、豪族の住まいは見当たりません。使用している土器も在地の土器と関東系の土器が一緒に使われています。在地の蝦夷と移民(柵戸)の住み分けもなく協働の集落を営んでいたようです。

 さて、赤井官衙遺跡の囲郭施設(材木塀)について考えてみましょう。赤井官衙遺跡の材木塀は栗の木を加工した丸太材で、800メートル以上を囲む施設です。直系25センチほどの丸太材を800メートル並べるだけで3200本の栗材が必要になります。1周を取り囲むと6400本以上にもなります。丸柱材は地下に70~80センチ埋められています。地上の柱は腐って残っていませんが、他の遺跡では地下に埋められた3倍の高さの塀になると推定されています。おそらくは高さ2.4メートルほどの塀だったと想像されます。

 どのようにして長さ3メートルの真っすぐな栗の丸太材を6000本も調達したのでしょう。東西800メートルの外囲いを造営するだけでも、設計・建築技術者、大量の資材と労働力、そして指導者が必要です。加えて内部の建物や高床倉庫、竪穴住居なども造営するのですから大変な作業です。

 材木を800メートル以上も立て並べた塀と大溝は、外部からの侵入を防ぐ防御施設であると同時に在地の蝦夷にとってはこれまで見たこともない新しい知識や技術、文物が集約された場所を示すモニュメントでもあったのです。

 この囲郭集落と呼ばれる大規模な遺跡は、赤井官衙遺跡の他に仙台市長町駅東(ながまちえきひがし)遺跡、蔵王町十郎田(じゅうろうた)遺跡、大和町一里塚遺跡、大崎市名生館(みょうだて)官衙遺跡、南小林(みなみおばやし)遺跡、三輪田(みわだ)・権現山(ごんげんやま)遺跡など仙台平野から大崎・牡鹿地方まで分布し、どの遺跡でも共通して北武蔵系の土器が出土します。これほど大規模な遺跡が幾つも造られるのですから、国家(ヤマト王権)の指導による施設に他ならないでしょう。外部を材木で囲う施設であり、これを初期の「柵」と考えることができます。

■国家施設の「柵」

 石巻地方は古代には「牡鹿」と呼ばれた地域ですから、そこに造営された赤井官衙遺跡は国家施設である「牡鹿柵(おしかのさく)」だと考えられるのです。

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