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2022ニュース回顧 取材ノートから>被災地に寄り添うアート

天使像に東日本大震災後の救援で来た人々を重ね合わせたRAFのキービジュアル

 2022年も残すところあとわずか。石巻地方では3年ぶりに「石巻川開き祭り」や「女川みなと祭り」が開催されるなど、東日本大震災や新型コロナウイルスの影響で中止が続いていた催しの再開はあったが、新型コロナはいまだ収束に至っていない。ロシアのウクライナ侵攻、物価の高騰など人々を不安にさせる出来事も相次いだ。記者の取材ノートから今年のニュースを振り返る。

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<鮮魚店や加工場を展示場に 「石巻ならでは」のRAF>

 新型コロナウイルスの感染防止を考慮し、会期を昨年8~9月の「前期」と、今年8~10月の「後期」に分けて開催したアートと食、音楽の総合祭「リボーンアート・フェスティバル(RAF)2021-22」。後期は使用されていない石巻市内の水産加工場や市中心部で長年愛された鮮魚店が芸術作品の展示場所になるなど、石巻ならではの視点が数多く盛り込まれ、被災地に寄り添う作家の姿やアートが目立った。

 RAFをきっかけにギャラリーが増えている石巻市中央地区。今年3月に閉店した中央1丁目の鮮魚店「プロショップまるか」では、三重県出身の芸術家弓指(ゆみさし)寛治さんと芥川賞作家の朝吹真理子さんが絵と文章の作品を公開した。

 弓指さんは制作のため、何度も石巻に足を運んで住民と対話を重ねた。バッティングセンターや学校など、思い出に残っている場所とエピソードを聴き取り、柔らかな印象を受ける絵を展示。会場の特徴を生かし、魚の絵を本物の鮮魚店のような形で陳列した見せ方は興味深かった。

 これまでのRAFは、牡鹿半島が持つ自然に目を向ける向きが強かった。今回は初めて石巻南浜津波復興祈念公園に作品を展示、キービジュアルの彫刻は被災地に救援に来た人たちを表現するなど、東日本大震災と住民の暮らしをテーマに取り入れた作品が目を引いた。

 キュレーターの和多利浩一さんは「被災地を慰霊だけでなく、未来に向け希望を感じる場にしたい」と話し、一部の作品を撤去せず残していく考え。

 沿岸部でもアートを生かした取り組みが進む。雄勝地区の防潮堤に壁画を描いて展示する野外美術館「海岸線の美術館 SEAWALL MUSEUM OGATSU」が11月にオープンした。雄勝に滞在し、創作活動を展開した東京都の芸術家安井鷹之介さんが中心となった。

 安井さんは、数年前から地元漁師の手伝いをするなどして浜の暮らしを体験。信頼関係を築きながら上雄勝地区2カ所の防潮堤を作品とした。今後は雄勝の違う浜でも壁画を制作する意向で、数が増えるだけでなく、イベント開催時の拠点にもなりそうだ。

 作家同士の交流が盛んな石巻。さまざまなアイデアが飛び交うことで、来年は今以上に地域の特徴を生かし、発展を後押しするような作品が増えることを期待したい。(大谷佳祐)

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