高らかに古里賛歌 カンタータ「大いなる故郷 石巻」5月28日公演 初演から半世紀
カンタータ「大いなる故郷石巻」公演が5月28日、石巻市開成の市複合文化施設(マルホンまきあーとテラス)で10年ぶりに行われる。初演から半世紀。コロナ禍を乗り越えて新たな総合演出の下に交響楽団、合唱、舞踊が一体となった古里賛歌が繰り広げられる。新しい石巻創生に向けた第一歩を踏み出す。東日本大震災復興祈念・石巻市複合文化施設開館記念事業として行われる。市文化協会が主催。(久野義文)
生みの親は石島恒夫さん
大いなる故郷石巻は、石巻市制施行40周年記念事業として制作された古里賛歌。初演が1973年11月4日、市民会館で行われた。作詞が石巻地方の文化振興に情熱を注いだ石巻芸術協会事務局長の石島恒夫(1930~88年)、作曲が石巻市出身の作曲家小杉太一郎(1927~76年)。
4楽章から成る、交響楽団と合唱による大作。第1楽章「日高見」、第2楽章「たたら火」、第3楽章「雄図」、第4楽章「祝祭」-で構成。困難を乗り越えながら港町として栄えた石巻の歴史・文化、産業への誇りが歌い上げられる。
以後、10年ごとに演奏された。東日本大震災から2年後の2013年、市制施行80周年記念事業として市総合体育館であった演奏は特別のものとなった。追悼と復興への思いを乗せた公演になった。
総合演出・三國裕子さんに聞く
-俳優として石巻地方の演劇界をけん引してきたが、今回はカンタータの総合演出という立場です。
「管弦楽は足立岳志さん、合唱は星由貴さん、舞踊は藤間京緑さんと部門ごとに指導者はいるが、それらを融合し一つの舞台に創りあげなければならない。芝居の演出はしたことはあるが、総合演出は初めての経験。ちょっと緊張している」
-でも、やりがいがある。
「50年前に生まれた作品で、10年ごとの節目に発表されてきた。今では石巻の誇りうる芸術文化財産。それを今までとは違った演出で、面白く魅せたいという気持ちが強い」
-一番、気を遣っているところは。
「第1部の郷土芸能と合わせると、約1時間半の舞台になると思うので、メリハリをつけたい。何より一人一人が気持ちをしっかり持つように意識させたい。演じる側の情熱がないと観客に伝わらない」
-何を伝えたいか。
「古里を愛する気持ち。いかに分かりやすく伝えるかが私の役割」
-それはこの作品の生みの親・石島恒夫さんの思いでもある。
「そう、石島さんがカンタータに託したのは古里への誇りだと思う。それを次の世代につないでいってほしいという願いが込められている。石島さんのその思いを舞台で表現したい」
-東日本大震災の津波で被災し、今はコロナ禍。地域社会も、そこに暮らす市民も不安な毎日だ。
「だからこそカンタータで市民を勇気づけたい、鼓舞したい。カンタータはその時代、その時代を映す鏡だからだ。今を乗り越える力をカンタータは持っている。新しい石巻創生への心のよりどころになるようなカンタータを、みんなと創りたい」
-改めてどんな舞台を目指しているのか。
「躍動感のある舞台。舞踊ではフラメンコを取り入れる。なぜフラメンコかと言うと、カンタータは石巻の歴史をうたった作品で、支倉常長がスペインに渡った史実も紹介される。そのスペインと言えばフラメンコ。石巻が歩んで築いた歴史をステージで楽しく豊かに表現できれば」
-三國さん自身の出番は。
「朗読を担当する。これまでは男性がしてきた。柔らかく読むことでカンタータの世界に誘いたい。来た人たちに感動を与えたい。観客が石巻のこと、郷土のことで誇れる何かを発見できる舞台になれば総合演出家としてうれしいことはない」
指揮、独唱も石巻出身
カンタータ「大いなる故郷石巻」公演は5月28日午後1時半から市複合文化施設(マルホンまきあーとテラス)で行われる。入場料は一般2000円、高校生以下1000円。全席自由。連絡先は市文化協会事務局0225(22)4689。
第1部は神楽など石巻地方に伝わる郷土芸能を紹介。第2部がカンタータ「大いなる故郷石巻」。指揮は佐々木克仁さん、独唱は三浦梓さん(ソプラノ)と千葉昌哉さん(バリトン)、朗読が三國裕子さん。4人とも同市出身。管弦楽は市民交響楽団ほか。合唱はカンタータ「大いなる故郷石巻」を歌う会、舞踊はカンタータ「大いなる故郷石巻」を踊る会。
<88歳の新田さん、合唱で参加>
初演から毎回、合唱団の一員として参加しているのが元音楽教師の新田昭夫さん(石巻市)。88歳と合唱団員の中でも大ベテラン。新田さんは「石島さんが作ったカンタータを受け継ぐ人たちがいる。それがうれしい。東日本大震災があった後も、被災した市民会館の代わりに市総合体育館で歌った体験は忘れられない。市民の心が一つになった。カンタータは希望が沸いてくるような力をひめている。コロナ禍の今だから歌う意義がある」と話す。
<和光市から、有志が出演>
埼玉県和光市から有志が駆けつけて出演する。東日本大震災後、石巻市と和光市は音楽を通じて交流を深めてきた。和光市では、和光3・11を忘れない実行委員会が「みんなでつながろうin和光」を開催。6回目となった2018年3月11日には、和光市民文化センターでカンタータ「大いなる故郷石巻」全楽章が演奏され、石巻市から市民交響楽団と石巻合唱連盟の有志約50人が参加した。
これまでの歩み
◇1973年11月4日(市民会館)市制施行40周年
管弦楽・東京交響楽団
指 揮・小林研一郎
独 唱・伊藤京子(ソプラノ)、友竹正則(バリトン)
朗 読・山内明
合 唱・286人
◇1983年7月9日(市民会館)市制施行50周年
管弦楽・石巻市民交響楽団、東京シテイ・フィルハーモニック管弦楽団
指 揮・堤俊作
独 唱・斎藤昌子(ソプラノ)、大島幾郎(バリトン)
朗 読・新田昌玄
合 唱・石巻合唱連盟(237人)
◇1993年10月31日(市民会館)市制施行60周年
管弦楽・石巻市民交響楽団
指 揮・北村陽一
独 唱・菅英三子(ソプラノ)、大島幾郎(バリトン)
朗 読・坂本益雄
合 唱・石巻合唱連盟(283人)
◇2003年11月16日(市民会館)市制施行70周年
管弦楽・石巻市民交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団
指 揮・岡﨑光治
独 唱・菅英三子(ソプラノ)、鹿又透(バリトン)
朗 読・米澤牛
合 唱・大いなる故郷石巻を歌う会(297人)
舞 踊・大いなる故郷石巻を踊る会(28人)
◇2013年6月23日(市総合体育館)市制施行80周年
管弦楽・石巻市民交響楽団、首都圏311有志、日本フィルハーモニー交響楽団有志
指 揮・佐藤寿一
独 唱・菅英三子(ソプラノ)、成田博之(バリトン)
朗 読・芽根利安
合 唱・大いなる故郷石巻を歌う会(214人)
舞 踊・大いなる故郷石巻を踊る会(70人)
◇2018年3月11日(埼玉県和光市民文化センター)
管弦楽・石巻市民交響楽団、和光3.11スペシャルオーケストラ
指 揮・佐々木克仁
独 唱・三浦梓(ソプラノ)、古澤利人(テノール)
朗 読・林竜多郎
合 唱・石巻合唱連盟、和光3.11スペシャル合唱団、和光市内小学生有志、東京荒川少年少女合唱隊、みどりのそよ風児童合唱団、うずら児童合唱団(181人)