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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方>移民の墓 矢本横穴墓群 Ⅱ

矢本横穴出土遺物1。金銅製耳環、玉類、金銅荘方頭大刀など(東松島市教委提供)
矢本横穴出土遺物2(88号墓、65号墓、鉄製馬具(轡)、須恵器環状瓶(東松島市教委提供)

【東北学院大博物館学芸員・佐藤敏幸氏】

第3部 律令国家の形成と境界域の石巻地方

<墓前の儀礼変化 物語る>

 前回、大化改新後の移民の墓域とみられる史跡矢本横穴の概要をお話ししました。矢本横穴墓群について、もう少し詳しく紹介していきましょう。

 矢本横穴墓群はお墓の遺跡ですから、1300年前の人骨や被葬者の脇に供えた副葬品、墓の前で行った送葬儀式の土器などたくさんの遺物が出土しています。

■33振りの刀剣類

 副葬品は「コトドワタシ」と呼ばれる死者が黄泉国(よみのくに)へ行くときに持つものとされ、権威を示す生前使っていた刀剣や馬具、首飾りや耳環などの装飾品、寵愛(ちょうあい)したとみられる珍しい土器などが選ばれたようです。

 刀剣類は33振りが出土していて、そのうち19振りは全体が分かるものです。その中には、銅製の柄頭(つかがしら)で金メッキの飾りのある長さ84センチの金銅荘方頭大刀(こんどうそうほうとうたち)があり、金メッキの金具の付いた鞘(さや)に納めた状態で置かれていました。

■職や位階を示す
 
 武人を象徴するかのように馬の轡(くつわ)や鐙(あぶみ)、弓矢の矢の先に装着する鏃(やじり)の鉄製品もあります。装飾品では銅に金メッキした金銅製耳環(じかん)のほか、メノウや蛇(じゃ)紋岩(もんがん)製の勾玉(まがたま)、水晶製切子玉、碧玉製管玉(へきぎょくせいくだたま)、ガラス小玉、数珠玉、琥珀製棗玉(こはくせいなつめだま)などのネックレスの部品が出土しています。

 耳環やネックレスは首長クラスの豪族が正装する時に身に着けるものです。また、被葬者の職や位階を示すものとして「和同開珎(わどうかいちん)」の古銭、役人が正装の際に腰に巻く革帯(かくたい)、生業に関係すると思われる蛤(はまぐり)や牡蠣(かき)の貝類もあります。

 「和同開珎」は同じ墓から3枚出土して、被葬者は奈良の都から持ち帰ったものを所持していた人物なのでしょう。「革帯」は牛革製のベルトで銅に黒漆で加工した金具が付けられたものです。古代の役人の所有物になります。蛤や牡蠣の貝類は被葬者が生前、海女さんのような海での生業を主としていた人物かもしれません。

 人骨は多くの墓から出土しています。普通なら高温多雨で酸性土壌の日本では腐って土に返ってしまいますが、1300年間その形をとどめていました。遺体を納めていた部屋が扉や土で密閉されて空気が遮断され、温度・湿度が一定に保たれ、骨を分解する微生物の活動を抑えられたことが骨の状態で遺った要因と考えられます。一つの墓に複数の人が埋葬されていて、出土した人骨は伸展して寝ている状態のものは少なく、多くが頭蓋骨や腕や足の骨が片付けられてまとまった状態で発見されています。今でいう改葬・集骨された状態に似ています。

■土器も多数出土

 墓の入り口からは葬送儀礼で使った土器が多数出土しています。土師器坏(つき)、高坏、高台付(こうだいつき)坏、埦(わん)、須恵器坏、蓋(ふた)、埦、高台付埦、短頸壺(たんけいこ)、耳付壺、長頸瓶(ちょうけいへい)、フラスコ形瓶、ハソウ、環状瓶(かんじょうへい)、甕(かめ)など多種にわたります。珍しいものではドーナッツのような形をした環状瓶や、長野県~北陸地方に類例のある胴部に突帯(とったい)と呼ばれる装飾の巡る突帯付短頸壺があります。

 これらは墓前で飲食儀礼に使用し、家に持ち帰らずに置いていったものです。土師器の中には赤井官衙(かんが)遺跡から出土するものと同じ関東系土師器があります。また須恵器の中には東海地方で生産された静岡県湖西(こさい)窯跡群産長頸瓶、フラスコ形瓶、愛知県猿投(さなげ)窯跡群産長頸瓶、耳付壺があります。特に湖西窯跡群産の瓶類は宮城県内で最も数多く出土しています。

 お墓が造られ始めた7世紀頃は須恵器瓶や甕類のみが出土する例が多く、奈良時代になると坏類の食器も遺されるようになりました。瓶に酒を入れてささげたり供えたりする儀礼からお葬式の「お斎(とき)」(法事・法要の会食)のような飲食による儀礼が行われたのかもしれません。墓前での飲食儀礼の変化を読み取ることができます。

 東北地方でこれほど豊富な遺物を出土した横穴墓群はありません。矢本横穴墓群は豊富な出土品があることでも注目され、その内容も歴史的に重要なものが含まれている遺跡なのです。

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