閉じる

わいどローカル編集局>野蒜ケ丘(東松島市)

丘陵地を造成した高台に広がる野蒜ケ丘地区。学校や駅、病院がコンパクトに配置されている
複合施設の要所に緑が配置され、豊かなやすらぎの時間を過ごせる

 石巻地方の特定地域のニュースを集中発信する「わいどローカル編集局」を開設します。2回目は「東松島市野蒜ケ丘」です。

   ◇

高台に集約、新たなまち 公共施設や駅ごと移設

 山林を切り開いて造成された高台に、新しい住宅が立ち並ぶ。東松島市野蒜ケ丘地区は東日本大震災で甚大な被害を受けた野蒜・東名地区の移転先として整備され、公共施設や鉄道の駅ごと移転した住宅団地だ。

 造成面積は91.5ヘクタール。一戸建て用地278区画と災害公営住宅170戸が整備され、昨年12月末時点で511世帯1281人が暮らす。

 「昔は散策したり沼が凍ればスケートをしたりした場所。まさかこうなるとは思わなかった」。野蒜まちづくり協議会会長で2丁目の自治会長を務める渡辺克己さん(65)が振り返る。

 遊び場だった場所は住宅団地に変わったが、コンパクトに機能がまとまり、暮らしやすいと感じる。地区には野蒜市民センターや宮野森小、野蒜保育所のほか、郵便局や病院もある。宅地に沿ってJR仙石線の線路が走り、野蒜駅と東名駅が移設された。

 大規模な団地造成の際には切り出した約280万立方メートルの土をベルトコンベヤーで搬出。ダンプカーで運んだ場合と比べて4分の1に当たる10カ月間と工期の短縮が図られた。松島四大観の一つ、大高森からの眺望に配慮して地区南側の斜面は緑地として残され、樹種や住宅の色味を制限するなど統一感のある街並みがつくられている。

 1~3丁目の各自治会は2017年に発足。2丁目では花見や祭りのほか、住民による公園の除草や周辺のごみ拾いといった美化活動にも力を入れる。

 渡辺さんは「住民の6割は震災前と同じ地域から移ってきた。新住民と顔を合わせればコミュニケーションを構築する機会になる。あとは新型コロナウイルスの影響で中断している祭りができれば最高」と語った。

医療・介護・飲食・岩盤浴など融合、「いろどりの丘」

多目的ホールで談笑する利用者

 一歩足を踏み入れると、暖かな日差しと緑が出迎える。自然な生活空間を再現した施設は、住み慣れた家のような穏やかな雰囲気をまとう。

 診療所と介護施設(宿泊、通所、訪問)に一般も利用できるレストラン、岩盤浴などを併せ持つ複合施設「いろどりの丘」(野蒜ケ丘2丁目)。介護部門を管理する佐藤恵美さん(43)は「サービスを受ける感覚ではなく、ここに来ることを生活の一部にしてほしい」と話す。

 医療・介護と娯楽を一つの施設に融合し、交流しながら過ごすことが、心身の健康に寄与すると施設は考える。「集い、楽しむことで健康になる」という理念を形にした。

 運営する北原病院グループ(東京)は、東日本大震災の被災地に医療物資を届ける中、野蒜地区住民の要望を受けて2012年、同市川下響に「北原ライフサポートクリニック東松島」を開院。そこで得た経験や調査を基に21年、いろどりの丘を完成させた。

 通所介護を週1回利用している同市野蒜ケ丘の前見シヅエさん(88)は「ご飯もおい
しく、ゆっくり休めるのでめいもお風呂を利用に来ている」と笑顔。開設から約1年、地域の憩いの場として定着してきた。

 子育て世代が多い野蒜ケ丘。自治会へのヒアリングを基に、今後は託児機能や強みの医療を生かした病児保育なども検討している。

 佐藤さんは「地域を良くするには、同業者や地域とのつながりを育むことが大切。声を聴き、ニーズに応えていきたい」と話した。

いろどりの丘

地場産大麦での醸造目指す

店舗に併設した醸造所に立つ大谷さん。地域おこし協力隊の仕事が終わると店を開ける

 住宅や店舗が並ぶ野蒜ケ丘3丁目の新エリア「野蒜ケ丘サスティナブルコモンズ」に昨年10月、クラフトビールなどを提供する「ビアベース カンパネラ」がオープンした。店主の大谷直也さん(38)は、併設した醸造所で地元産大麦を原料とするビール造りを目指す。

 大谷さんは神奈川県秦野市出身。復興庁の事業でアサヒ飲料から一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE)に出向し、東日本大震災で被災した農地での大麦栽培などに取り組む「希望の大麦プロジェクト」を担当した。現在は退職して市の地域おこし協力隊員も務め、1次産業の6次化サポートなどに取り組んでいる。

 プロジェクトに携わった経験から、生産者の思いを伝えられる商品や場所を作り、地域で消費できるようにしたいと考えた大谷さん。盛岡市の地ビール製造会社で学び、店の隣に醸造タンク4基などを据えた醸造施設を用意した。春ごろの醸造開始を目指して準備を進めており、年間6~12キロリットルの製造を見込む。

 現在「ビアベース カンパネラ」では希望の大麦を使って県内で造られたクラフトビールなどを味わうことができ、地元客を中心とした交流の場になっている。

 醸造が始まれば大麦はもちろん、市内産の果物や野菜、海産物なども原料として使っていきたい考えだ。大谷さんは「生産者の思いや背景を伝え、ここでしか飲めない、ここで飲むのが一番というビールを造りたい。生産者と顧客をダイレクトにつなげるようなビアツーリズムもやっていきたい」と話す。

ビアベース カンパネラ - Facebookページ

   ◇

 今回は小野、野蒜販売店と連携し、及川智子、西舘国絵の両記者が担当しました。次回は「石巻市稲井」です。

関連リンク

関連タグ

最新写真特集

石巻かほく メディア猫の目

「石巻かほく」は三陸河北新報社が石巻地方で発行する日刊紙です。古くから私たちの暮らしに寄り添ってきた猫のように愛らしく、高すぎず低すぎない目線を大切にします。

三陸河北新報社の会社概要や広告、休刊日などについては、こちらのサイトをご覧ください

ライブカメラ