仙台出身の作家 山野辺太郎さん 新刊「こんとんの居場所」 死生観 不思議な世界で
大学卒業後、定職に就かずひきこもり気味の青年は、海に浮かぶ島のような物体「こんとん」の謎を探る仕事を得て調査船に乗り込む。仙台市出身の作家、山野辺太郎さん(47)の新刊「こんとんの居場所」は、任務を真面目に果たしているはずが、いつしか不思議な世界に転じる独特の死生観を描き出す。

深刻な状況 視点変え喜劇に
「渾沌島取材記者 経験不問要覚悟 長期可薄給裸有」。こんな三行広告を目にした25歳の純一は、面接のため東京から千葉県の房総半島に向かう。怪しげな募集ではあったが、裸という1文字にも心引かれた。
首尾よく採用され、同僚で3歳年上の千夜子、雇い主の園田先生らと調査船「ひょうたん丸」で出航する。心を通わせる純一と千夜子だったが、幾日か後「こんとん」に上陸した2人は、「ぬるぬるとした」謎の物体に溶け込まれていく。
生から死への移行なのか、あるいは生死の境目のない存在に移ろうのかは判然としない。山野辺さんは「生の終焉(しゅうえん)、断絶と捉えるというより、大きな流れの中での一つの変化という見方もできるのではないか」と自作を解説する。
会話や場面、プロセスが丁寧に描かれ、壮大なほら話のような物語は次第に明瞭なイメージを帯びていく。日常から出発し、どこか奇妙な場所に向かっていく作風は、2018年に文芸賞を受けたデビュー作「いつか深い穴に落ちるまで」や、昨年刊行の「孤島の飛来人」にも通じる。
「ベースに現実的なものがある。見方を変える何かが投げ込まれることで違う世界に行くけれど、現実をもう1回捉え直す機会にもなる」
創作の着想はコントにも似ているという。「絶対うそだろうと、誰もが突っ込めるようボケ倒す感じ」。郡山市に生まれ、小学3年から高校卒業まで仙台市で暮らした。少年期の楽しみは「ひとひねりあった」と振り返るお笑い番組「オレたちひょうきん族」だった。
文学に傾倒した高校時代は太宰治に親しんだ。「深刻な状況だからこそ、視点を変えることで笑いが生まれる。笑いを大事にしたい」。少し引いたところに立つと悲劇だったものが喜劇に映るという。
新刊には、人間が蒸発してしまう書き下ろし小説「白い霧」も収録している。
(菊地弘志)

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