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角星白山製造場 酒蔵再出発 味わい増す <廃校ルネサンス(15)旧白山小(気仙沼市)>

体育館を改修した醸造棟で、タンクに入ったもろみをかき混ぜる従業員たち

 東日本大震災で被災した気仙沼市の酒造会社「角星」は2021年秋、市北部の山あいにある旧白山小に製造場を移した。「鹿折川を水源とする浄水場の水はミネラル分が豊富。前の製造場より味わいが増した」。斉藤嘉一郎社長(64)が手応えを語る。

 正門前には川が流れ、周囲の緑が濃く、豊かな自然に恵まれる。製造課長の鈴木肇さん(52)は「山間部のため冬場の冷え込みは厳しく、環境変化は少なくないが、周りの自然にも癒やされている」と説明する。

 市街にあった製造場は、1906年の創業後間もない頃から稼働。津波の浸水は免れたものの、地震で梁(はり)に亀裂が入るなどした。老朽化の問題もあって移転を決意し、市から閉校した白山小の土地を購入して、建物を譲り受けた。

角星の製造場として生まれ変わった旧白山小校舎

 校舎や体育館内は改修して空調設備を整え、一年を通して酒造りができるようにした。旧教室は休憩室や試飲室、資材庫などに活用。昨年から酒の酵母を使ったワインの製造も行っている。

 白山小は地域に愛された学校だった。斉藤社長は製造場を移す前、下見に訪れたことがあった。「学校の周囲の花壇などが、住民によって丁寧に手入れされていたのが印象的だった」と振り返る。

 地域のシンボルだった学校を大事に思い、校舎に付けられていた校章は汚れを取り、元通りに付け直した。旧理科室の棚には、校史を伝える資料などを保存する。地元自治会長の村上利喜雄さん(73)は「地域に対する思いがありがたい。気仙沼を代表する酒造会社の拠点となり、新たな人の往来が生まれてうれしい」と感謝する。

代表銘柄「水鳥記」の季節限定の夏酒。旧音楽室を活用した試飲室の窓からは鹿折川が見える

 村上さんは白山小卒業生の一人。鹿折川をせき止めたプールでの水泳など、学校にまつわる思い出は尽きない。もともと角星の日本酒をよく飲んでいたというが「瓶に白山製造場の地名が入っているのを見ると特別おいしく感じる」と笑顔を浮かべる。

 角星は今年から、新型コロナウイルスの影響で抑えていた生産量を増やし、白山製造場の本格稼働を目指す予定。斉藤社長は「蔵としての復興をようやく果たした。再出発の地で地域と共に歩み、今後さらに100年愛される酒蔵でありたい」と力を込める。

 体育館を改修した醸造棟では、酒の仕込み作業が続く。豊かな水と緑に囲まれた環境が、洗練された味を育んでいく。(文・菊池春子、写真・鹿野智裕)

 旧校地に残る記念碑などによると白山小は1873(明治6)年開校。2015年に閉校し、鹿折小に統合された。山あいで雪が多く「雪上かるた大会」が恒例行事だった。角星白山製造場となった体育館は1970年、校舎は75~92年に建てられ、延べ床面積は計約2000平方メートル。連絡先は角星0226(22)0007。

角星白山製造場 酒蔵再出発 味わい増す <廃校ルネサンス(15)旧白山小(気仙沼市)>

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