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<記憶の素描(31)芥川賞作家・石沢麻依>冬眠するガラス

 4月が半ば過ぎた頃、冬が戻ってきた。寒々しい灰色に覆われたイェーナの街から、春の気配が消え、植物の彩りが急にあせてゆく。アパートの窓ごしに見えるライラックの花からも色が抜け落ちて、次第に透明になるような気がした。それに気を取られた時、透明な悲鳴が足元で弾けた。床の上には、ティーポットが割れて転がっ…

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記憶の素描

 仙台市出身の芥川賞作家石沢麻依さんのエッセーです。ドイツでの生活で目にした風景や習慣の妙、芸術と歴史に触発された思い、そして慣れ親しんだ本や仙台の記憶を、色彩豊かにつづります。

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