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犯罪被害者遺族、話せば「心も体も軽くなる」 福島・猪苗代で東北初の交流会

東北の犯罪被害者遺族の交流会で、自身の体験を発表した渡辺さん

 東北の犯罪被害者遺族の交流会が29日、福島県猪苗代町のホテルであり、19人が参加した。当事者同士のつながりを育もうと、全国20の被害者団体でつくるネットワーク「ハートバンド」が初めて企画した。

 参加者2人が体験談を発表。青森市の福井友望さん(42)は、信号を無視して運転する高齢者のスピード違反の車に夫=当時(50)=がはねられ、亡くなった。加害者に反省は見られず、謝罪もなかったにもかかわらず執行猶予付きの判決で「失望し、司法が信じられなくなった。何一つ納得できない」と涙を流した。

 福島県郡山市の渡辺尚子さん(58)は居眠り運転のトラックが起こした追突事故で、息子同然にかわいがっていたおい=当時(18)=を失った。「仕事に身が入らなくなり、心も不調になった。事故を知っていて『いつでも泣きに来ていい』と言ってくれた医者と出会ったことで、少しずつ回復した」と振り返った。

 2001年にあった大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)の校内児童殺傷事件で長女が犠牲になり、グリーフ(悲嘆)ケアに取り組む本郷由美子さん(57)が講演。「グリーフは一生続くが、人との関わりの中で少しでも苦しみを和らげて生きていくことはできる。誰もがケアできる社会になってほしい」と語った。

 自身も12歳の時に交通事故で父を亡くしたあしなが育英会(東京)の西田正弘東北レインボーハウス所長、元東京高検検事で犯罪被害者支援を専門とする内藤秀男弁護士も登壇した。30日は郷土玩具「赤べこ」の絵付け体験などで親睦を深める。

参加者の記念撮影で笑顔を見せる保孝さん(前列左)と郁美さん(同右)

企画した井上さん夫妻は長女と次女を亡くす 「つらい体験を語り合うことがグリーフケアにつながる」

 「ハートバンド」共同代表の井上保孝さん(74)と郁美さん(55)夫妻=ベトナム在住=は1999年11月、東京都内の東名高速道で乗用車が飲酒運転の大型トラックに追突され、同乗の長女と次女を亡くした。東北で初めて開催した交流会について「つらい体験を語り合うことがグリーフケアにつながる」と語る。

 長女奏子(かなこ)さんは当時3歳、次女周子(ちかこ)さんは1歳だった。常習的に飲酒運転をしていた加害者への判決は、業務上過失致死傷罪などで懲役4年。「全ての交通事故を過失で裁くなんて理不尽だ」。37万筆超の署名を集めて厳罰化を求め、2001年の危険運転致死傷罪の創設につながった。

 同時に自助グループに参加し、他の遺族と体験を共有することで精神的に救われたという。

 周囲の無理解や何げない一言も被害者や遺族を傷つける。「苦しみを誰にも話せず、相談できない中で孤独を感じてしまう。喪失による心身へのダメージは大きく、グリーフは自分でケアする必要がある」と郁美さんは言う。

 保孝さんも「遺族同士で話すことで澱(おり)のようなものが抜け、心も体も軽くなった」と振り返る。

 被害者の尊厳と権利の実現を掲げるハートバンドは03年以降、毎年11月に東京で集会を開いてきた。2人は今年4月に共同代表に就任。東北からの参加が少ないことが気になり、1泊2日の交流会を企画した。

 夜の懇親会では、お酒も楽しむ。普段は周囲の目を気にして飲めない遺族が少なくない。「バーゲンの買い物袋を見られたくない人だっている。楽しんではいけないと、自分を押し込めてしまう」と郁美さん。

 だからこそ「遺族同士なら安心して笑い合える」と強調する。

 東北でも被害者や遺族の輪が広がってほしいと、来年も交流会を計画する。「一人でも友達をつくれば、行き詰まった時や困ったときに連絡を取り合える。今回の参加者が地元で声をかけ、来年はより多くの人が集まればいい」。2人が期待を込める。

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