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まさかに備える【特集】お金の話

 災害はある日突然やってくる。日頃の防災対策が欠かせない。避難の心構えや備蓄はもちろんだが、「お金」の備えもお忘れなく。能登半島地震から1年が過ぎ、もうすぐ東日本大震災が発生した3月11日というこのタイミングで、改めて考えてみたい。

■キャッシュレス派も現金必要

 お金のことなら頼りになるのがファイナンシャルプランナー(FP)。今回話を聞いたのは日本FP協会宮城支部会員で防災士の資格も持つスペシャリスト、鈴木恒さんだ。災害時のお金と、万が一への備えについて教わった。

〇外出中の被災を考えよう
 まず、災害時の手持ちのお金について考えてみよう。2011年の東日本大震災の発生時、停電が長引いた地域では現金を引き出せなかったり、店に釣り銭がなく1万円札が使えなかったりといった記憶がある人もいるのでは。急速にキャッシュレス化が進む現在は、どう考えればいいのだろう。

 「発災直後は、被害の大きい地区では避難所に身を寄せることになり、自宅で過ごせる地区でも店から即座に商品がなくなることが多い。ごく初期はお金よりも防災用品など日頃の備えが役に立ちます」と鈴木さん。

 ただ、外出中に災害に遭遇する可能性も大いに考えられるので、「キャッシュレス派もお守り代わりに現金を持ち歩いて」とアドバイスする。非常電源を供えたコンビニや店舗は増えているが、キャッシュレス決済には通信環境も必要なため、大規模停電時や携帯電話の基地局が広範囲で被災した際は使用できない可能性が高い。

〇小銭携帯 便利グッズも
 「自宅へ帰るまでに必要な飲み物代や交通費程度の現金があれば、気持ちに余裕が生まれ避難行動に集中できます」とは、FPであり防災士でもある鈴木さんならではの助言。カード型の「コインホルダー」は小銭を携帯しやすく、鈴木さんも愛用しているそう。自宅には、当面買い物ができる程度の現金を保管しておくと安心だ。

 スマホ決済は便利な反面、本体を紛失したときのリスクが大きい。登録しているアプリの種類と、それぞれの利用停止方法を把握しておこう。アプリの数が多すぎると管理しきれないので、自分に合うものを選んで活用を。スマホは決済機能だけでなく災害時の連絡 や情報収集に欠かせないので、モバイルバッテリーも携帯しよう。

携帯型コインホルダーの一例。最低限の小銭を持ち歩くのに便利だ
日本FP協会 宮城支部会員・鈴木恒さん

 日本FP協会宮城支部では、無料の「くらしとお金のFP相談室」(要事前予約)を毎月2回ほど開催しています。保険についても家庭ごとの事情に寄り添い、中立的な立場からアドバイスしていますので、「こんなこと聞いていいのかな」と思うようなことも、1人で悩まず気軽に持ち込んでください。

【data】
日本FP協会宮城支部
仙台市青葉区中央3-2-1 青葉通プラザ7階
℡022-217-1205

WEBページ

■あの日あの時、FPたちは

 東日本大震災発生当時、FPの人たちが何を経験し、何を思ったのか。宮城支部会員のFP数人に話を聞いた(一部は匿名のためイニシャル表記)。

〇停電しのいだ太陽光発電 ~佐藤 篤さん~
 震災の時はお金よりも、水や電気、食料など、ライフラインや物質的な物の不足に困りました。電気については震災の前年に家をリフォームした際、太陽光発電を導入していたので、停電時も炊飯器が使え、携帯電話の充電もできました。太陽の恵みに感謝したことを覚えています。

〇持ち出し袋に現金を常備 ~鈴木 隆さん~
 災害に備え、保険や備蓄、非常用持ち出し袋の準備が欠かせません。私は持ち出し袋の中に現金を入れています。近頃は現金を持ち歩かなくなりましたが、災害時はきっと現金が役立つと思います。

〇小銭の必要性を実感した ~藤井 真由美さん~

 水道管が破裂して水が出ず、店も開いていない。飲み水を確保するために利用したのが自販機でした。震災当初は買い物においても1万円札より1000円札やコインが重宝すると感じました。

〇あって当然ではないお金 ~S.Iさん~
 「買い物ができない」。あの時のお金は、当たり前の「お金」ではありませんでした。将来のために大事な「お金」ですが、それだけではないと。あの時交わした「ありがとう」を大切に、今日に感謝して生きたいです。

〇泥まみれのお金 水洗い ~C.Sさん~
 私は金融機関勤務。津波で通帳やカードなどを流されて不安な方々が多く来店されたこと、泥まみれになった臭い硬貨や紙幣を水洗いしたことなどを覚えています。

〇加入保険の把握が不可欠 ~林 正夫さん~
 震災から2週間程度たつと、住宅やマイカーの被害を保険で賄えないかという相談が多く寄せられました。しかし、どこの保険に入っていたかすら判然とせず、契約内容を確認するのに時間を要しました。契約の概要や保険会社、連絡先などは災害持ち出しバックなどに常備しておく必要性を痛感しました。

■保険の必要額を計算しよう

 次はいざというときに備える保険の話。何がどれだけ必要なのか、基本的な考え方を聞いた。

〇ハザードマップをチェック
 保険は大きく分けて「モノ」にかける損害保険と、「人」にかける生命保険に分けられる。災害に備える損害保険の中では地震保険がよく知られているが、近年注目されているのが水害に対応する「水災補償」だ。台風や豪雨による河川の氾濫や洪水、高潮、土砂崩れなどで建物や家財が損害を受けた場合に補償される。加入を検討する際に参考になるのは自治体のハザードマップだが、「土地の開発や新たな災害の影響などによって更新されるので、最新のものをチェックしましょう」と鈴木さん。高台でも水のたまりやすいエリアや、水辺から遠くても水害が起きやすい場所があるので、「うちは大丈夫」という思い込みを捨てて調べてみよう。

 生命保険の必要保障額の考え方は「一家の働き手に万が一のことがあったとき、残される家族にいくら必要か」。必要保障額は家庭ごとに異なるが、共通する(そして案外見落とされがちな)のは「一般的には1年ごとに減少する 」ということだ。

〇自力で賄えない金額カバー
 例えば、ある家庭で一家の大黒柱が40歳で、その一家は毎月30万円の支出があると仮定する。この時点で大黒柱が亡くなった場合、残された家族は本来その人が定年退職を迎えるはずだった65歳までの期間に「30万円×12ヵ月×25年=9000万円」が必要となる。ただし、国民年金保険料を正しく納めていれば遺族年金が受給でき、仮に受給額を月10万円とすると(25年間で3000万円受給できるので)必要保障額は6000万円となる。この金額のうち自力で賄えない分を生命保険でカバーすると考えよう。

 生命保険のメリットは、契約手続きが完了したその日から全額保障されること。「貯蓄は三角、保険は四角と俗に言います。貯蓄はお金が貯まるまで時間がかかり、保険は加入後すぐ対応できることから『時間を買う』ものだと言えます」と鈴木さん(※四角と三角の図)。現在加入している保険に過不足はないか、確認の必要性を感じた。

■制度生かして保険加入を ~みやぎ水災・地震保険スタートアップ補助金~

〇最大1万2000円を補助
 宮城県は、水災補償や地震保険に新規加入した場合に補助を行う事業(みやぎ水災・地震保険スタートアップ補助金)を実施している。水災補償および地震保険は、台風や暴風雨、地震などによって住宅や家財に損害が生じた際に補償されるもの。同補助金は、水災・地震それぞれに対して住家5000円、家財1000円の合計として最大1万2000円を上限に、保険共済掛金初年度分の半額を補助する。申請期限は3月31日㈪までで、対象は契約日が2023年4月1日以降のもの。

 近年、県内でも大きな災害が頻発している。令和以降に限っても、19年の台風19号、22年の福島県沖を震源とする地震、大崎市や松島町で大きな被害を出した豪雨災害で、国の災害救助法が3回適用された。宮城県復興支援・伝承課の曽我駿斗さんによると、水災補償は認知度が低く、加入していない人が相当多いと考えられる。「床上浸水すれば家電製品が壊れ、水が引いた後も入り込んだ汚泥などによる不衛生な状態が続き、住宅の修復や家財購入に多額の費用がかかります。災害リスクの高いエリアにお住まいの方は、いざというときのスムーズな生活再建のためにぜひ検討を」と曽我さん。自治体のハザードマップはインターネットで簡単に調べられるので、自宅近辺の災害危険度をチェックしてみては。

〇専用フォームから申請
 水災補償・地震保険は火災保険に付帯して加入する。まずは自分が加入しているかどうか、火災保険の証券で確認しよう。どちらか一方だけでも、新たに加入する場合は補助金の申請が可能。申請するには専用フォームから必要事項を入力し、スマホで撮影した保険証券の画像を添えて申し込む。窓口に行ったり郵送したりといった手間がなく簡単だ。

制度について説明する曽我さん

【data】
みやぎ水災・地震保険スタートアップ補助金
申請期限/3月31日(月)
問/宮城県復興支援・伝承課災害援護班
TEL022-211-3433(平日8:30〜17:15)

宮城県公式WEBサイトの制度解説

(河北ウイークリーせんだい2025年2月13日号掲載)

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