35歳女性は「手遅れ?」50歳以上の卵子は「閉店」 秋田県の高校生向け冊子が炎上
妊娠を見据えた健康管理「プレコンセプションケア(PCC)」の一環として、秋田県が過去に高校生に配った冊子が物議を醸している。「卵子の老化」を表現したイラストや文言の一部内容に、交流サイト(SNS)上で批判が集中し、専門家も「偏見につながりかねない」と問題視する。分かりやすさを重視して冊子を選定した県は「配慮が欠けていた」と釈明する。(秋田総局・柴崎吉敬)
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県「配慮が欠けていた」
35歳を迎えた女性が「えっ 手遅れ!?」と驚き、しわの寄った卵子に精子が「熟女キラーです!」と迫る。50歳以上の卵子は「閉店」。男性には「脱! 草食化!」と呼びかける。
県配布の冊子「将来、ママにパパになりたいあなたへ~妊娠・出産のリミット~」。一般社団法人日本家族計画協会(東京)が2013年に作成し、全14ページで高齢出産のリスクや不妊治療、避妊などを図解入りで解説する。
県は不妊に悩む当事者から「早く知識を知りたかった」との声を受けて啓発を始めた。若者向けで分かりやすいとして20~23年度のうち21年度を除く3年間、県内の高校2年生男女と県内全市町村に配布。23年度は1万700部の購入費など約150万円を投じた。
今年1月にネットメディアが冊子を問題視すると、X(旧ツイッター)上で「女性を傷つけている」などと非難が殺到。「こんな県で産みたくない」といった県への批判も相次いだ。
産婦人科医でテレビ番組のコメンテーターとしても活動する宋美玄(そんみひょん)さんも「炎上してしかるべき内容」と投稿した。取材に対し、出産するか否かなどを自ら決める「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」の観点から疑問を呈した。
「高齢不妊の不安をやゆするような表現を用いて早く産むよう促しており、公に配る物として不適切だ。(学校現場の)性教育で生殖の知識が十分伝わってない中で、高校生が偏見を抱きかねない」と訴える。
協会によると、冊子は不妊などに関する電話相談をきっかけに作られた。監修した産婦人科医の北村邦夫会長は「あくまで子どもを望む人向けだ」と強調。「妊娠・出産に生物としてのリミットがあることを知らない人が多く、科学的な事実を伝えている。興味を持ってもらうには多少くだけた表現を用いることもある」と説明する。
県にも13日時点で5件の苦情が寄せられているが、現時点で回収などはしない考え。県保健・疾病対策課の担当者は「細部に配慮が欠け、検討段階で止めるべきだった。今後は人権や多様性をより考慮した発信の形を考えたい」と話す。
多様な選択肢に配慮求める声
プレコンセプションケア(PCC)を推進する動きが各地の自治体に近年広がり、東北では福島県がいち早く普及に力を入れる。人口減少や晩婚化を背景に、全国では少子化対策として提唱する事例もあり、関係者は多様な選択肢を尊重して情報を伝えるべきだと指摘する。
PCCは、世界保健機関(WHO)が2012年に定義し、政府の基本方針も「男女を問わず、性や妊娠に関する正しい知識の普及を図り、健康管理を促す」と定める。昨秋には、こども家庭庁が普及に向けた有識者検討会を立ち上げた。
東北では市町村単位で啓発が進み、福島県は本年度から普及事業を展開する。性や生殖の悩みに応じる相談拠点を新設し、支援体制を強化。結婚前後のカップルを対象とした検診なども実施している。宮城県は本年度、セミナーを初開催。岩手県も高校生向けの冊子配布などに取り組む。
全国的には少子化対策で推進する自治体もあるが、東北6県の関係者は啓発に注意を払う。岩手県は冊子の作成時などに外部の有識者が監修しており、担当者は「人生設計の押し付けにならないよう、正しい知識を伝えることを意識している」と明かす。
PCCの周知に取り組む秋田大病院産科婦人科の藤嶋明子医師は「妊娠を巡り、問題が起きてから後悔する人は多い」と早い段階から知識を得る必要性を説く。
その上で、啓発には出産するか否かなどを自ら決める権利の視点が不可欠と強調。「PCCは産ませるための政策ではない。妊娠したくない人も含め、全ての人が望む選択肢をかなえるために必要な知識との考え方が肝心だ」と語る。
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