閉じる

大船渡・山林火災「わが家は無事なのか…」 避難者を苦しめる真偽不明の情報

スマートフォンで山林火災の状況を確認する避難者の男性=2月27日、岩手県大船渡市の三陸公民館

 「わが家は無事なのか…」。岩手県大船渡市の山林火災は延焼が続いて被災地域への立ち入りが規制され、住民が自宅がどうなっているのか不安を募らせている。市内の避難所でニュースを見たり、交流サイトから情報を得ようとしたり。真偽不明の情報も入り乱れ、動揺する住民も少なくない。自宅の状況だけでも早く知らせてほしいと願う声が上がる。

「どこが焼けたのかという情報がほしい」

 大船渡市三陸町綾里の住民ら約250人が身を寄せた三陸公民館。3階会議室ではスマホを手にニュースサイトを眺める人や、オンラインの火災中継で自宅が映っていないか確認する人がいた。

 綾里白浜地区から避難した団体職員男性(55)は、東日本大震災の津波で自宅が全壊し、新たに自宅を建てた。「どこが焼けたのかという情報がほしい。何とかならないのか」。公民館の窓から煙に覆われた綾里の山々を見つめ、いら立った。

 「とにかく今、自分の家がどうなっているのか知りたい。全ての避難者の一番の願いだ」

 赤崎町宮野地区の会社員新沼潔さん(56)は、家族4人で避難した越喜来小で訴えた。一帯は火の勢いが衰えず、避難指示の範囲内にある自宅を訪れることは、まだ先になるとみられる。「住宅地のライブ映像があれば、だいぶ気持ちが整理できる」と懇願した。

 情報過疎の避難所では、交流サイトの情報や真偽不明のうわさも飛び交う。

 綾里宮野地区の70代女性は「綾里の田浜地区がほぼ全焼と聞いたが、そんなことはないという人もいる。いろんな情報に振り回され、一喜一憂している」と疲れた表情。赤崎町から避難した無職男性(73)も「あの家が焼けたと聞いたら、焼けてないという話もある。避難所で聞く情報は食い違いばかり」と明かす。

 自宅や集落だけではなく、親類の安否情報も気がかり。確かめようにも火災が行く手を阻む。

 赤崎町蛸ノ浦地区で2月27日、自宅待機していた70代無職男性は親戚と連絡が取れなかった。「親戚の様子を見に行きたいが、何もできない。風向きが逆になれば、こちらに火が回る可能性もある」。おびえた様子で嘆いた。

 翌28日、蛸ノ浦地区にも火が迫り、避難指示が出された。
(編集部・小関みゆ紀、せんだい情報部・吉田ちひろ、北上支局・江川史織、盛岡総局・高橋葵)

三陸公民館で衣類や食料を手に取る避難者=1日、岩手県大船渡市

焼失面積は1400haに 全体的な鎮火は見通せず

激しい炎や煙を上げて燃え広がる山林火災=1日午後8時ごろ、岩手県大船渡市三陸町越喜来の崎浜漁港(写真映像部・野界航也撮影)

 岩手県大船渡市の大規模山林火災は1日、焼失面積が約1200ヘクタールから約1400ヘクタールへと拡大した。空気の乾燥や強風で延焼しやすい状態にあり、一部で炎を抑えたものの全体的な鎮火は見通せない。市は新たに141世帯333人に避難指示を発令。現地は出火後初めての週末を迎え、千人以上が避難所で不安な時間を過ごした。

 1日も空と地上から消火活動が続いた。自衛隊が散水能力の高い大型ヘリコプターを6機投入するなど、態勢は日ごとに強化されている。

 県沿岸南部は12日連続で乾燥注意報が発出され、2月28日午後から3月1日午後にかけて強風注意報も出された。県によると、ヘリの活動などに影響した。

 市は1日夕方の記者会見で、市街地のある大船渡湾方面への延焼を抑えたと発表した。県は「延焼範囲が全体的に広がっている。懸命に食い止めている部分もあるが、他の地域でどうなっているか分からない部分もある」と説明している。

 避難指示の対象は1896世帯4596人になった。避難所にいる人は1日午後6時時点で1172人、知人や親戚の家に逃げた人も約2050人いるという。

 この日、市内の大船渡高や大船渡東高では卒業式が開かれた。親戚の家に避難している大船渡東高3年の仮谷実笑さん(18)は「みんな集まって卒業できて良かった。一日も早く火が消えて家に帰りたい」と話した。

関連リンク