社説(3/14):東日本大震災10年-宮城/海辺の歴史遺産生かそう

 和らいだ陽光を浴び、豊かな恵みに輝いた海辺を里浜と呼ぶ。

 子どもたちの歓声とにぎわいをよみがえらせたら、どんなにか喜ばれるだろう。

 宮城県の仙台湾沿いで、再興の歩みが始まっている。そのシンボルになっているのが、400年の歴史を持つ文化遺産、貞山堀である。

 シジミ漁やこうべを垂れる稲穂、仙台市唯一の深沼海水浴場、名取市の閖上漁港などは、市民の記憶に刻み込まれている。

 そうした場所を結ぶ貞山堀に船を走らせ、舟運と交流を復活させる構想だ。

 先人の夢を引き継ぎ、盛り上げれば復興の証しとなる。立ちはだかる壁を乗り越え、知恵を結集してほしい。

 先陣を切ったのは閖上地区だった。既に「ゆりあげ港朝市」から外洋に出て周遊するコースを設けている。

 これを内陸側に広げる。朝市の船着き場から広浦を通って貞山堀に入り、名取川の「かわまちてらす閖上」に着ける計画という。

 7月の就航を目指し、名取市は新年度予算案に新たな川船の建造費を組んだ。市の要請に応え、堀を管理する宮城県も全面協力した。

 この3月までにしゅんせつを行い、津波で埋まっていた土砂やがれきをさらって、船の底がつかえないように深くした。

 市の担当者は「1周3・5キロで始め、将来は仙台市側と行き来させたい」と夢を膨らませる。

 秋波を送られた仙台市側は、名取川をはさんで若林区~宮城野区間の9キロある。

 ところが、しゅんせつは行われず、流木などがごろごろと埋まったままで、船を出せる状況ではない。

 県によると、目に見える利活用の動きがなく、仙台市から除去してほしいという要望も来ていないという。

 運河の長所を生かすには、一体で進めることだ。仙台を含めて全国に情報発信すれば、観光にも寄与する。

 定点の動きを見てほしい。新浜地区では、町内会と市民団体「貞山運河倶楽部」の渡し船プロジェクトが人気を博している。

 新浜から南の荒浜、閖上まで船下りするプランもあり、住民は「昔のように船を浮かべ、ハゼ釣りをしたいのだが」と困り顔で話す。

 他方で、市の防災集団移転跡地の事業は進む。観光農園(荒浜)が今月オープン、温泉とレストラン(藤塚)は来春開業を目指す。

 それと比べて水運には距離を置き、ちぐはぐな施策に映る。余暇に人気の冒険広場(井土)をつなげ、船遊びを加えれば、可能性は限りなく広がるのではないか。

 仙台市の参画協力は不可欠であり、しゅんせつ要望のアクションを起こすべきだ。力を合わせて機運を高め、全体のデザインを描く時である。

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