<東北の本棚>五感題材に謎と闇描く

サクラオト/彩坂美月 著

 味覚、聴覚、視覚…。人間の根源にある五感をテーマに、謎と闇に迫るミステリー連作短編集だ。1話を読み進めるごとに増していく不穏な空気と、最終話で全てがつながる意外性。読後、著者が周到に準備したたくらみに、見事に引き込まれていた自分を自覚する。驚きの手法に、思わずうなってしまう。

 「小説すばる」に2012~18年に掲載し、加筆修正した4作と書き下ろし2作の計6作を収録した。

 表題作の第1話「『サクラオト』春」は、殺人が繰り返される桜の前で、学生の男女が推理を巡らせる。2人の微妙な関係性が浮き彫りにされるにつれ、緊張が高まっていく。冒頭の「桜の音が聞こえる人は、魔に魅入られた人なんだって。」という1文が、読者を不穏な世界に誘う。

 第5話「『春を掴(つか)む』春」は、観光バスが起こした事故で少女が1人、山に取り残されるシーンから始まる。助けてくれた少年とその後、大学生になるまで幾度もつないだ手の感触。最後もまた、手をつないだ感触から、少年の心の移り変わりを悟る。

 最終話「Extra stage『第六感』」は、第1話と同じ場所を舞台に設定。5話までの伏線が明らかにされ、一つにつながっていく。

 ライトノベルの装丁だが、読み応えは十分ある。「花びらは音もなく降りつもり、やがて、全てを覆っていく。」。最終話の最後の1文がまた、何とも言えない心のざらつき感を、余韻として残す。

 著者は山形県生まれ。09年「未成年儀式」で富士見ヤングミステリー大賞に準入選し、デビューした。著書に「みどりの町の怪人」「向日葵(ひまわり)を手折る」などがある。(郁)

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 集英社03(3230)6095=638円。

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