困窮学生「五輪バイト」でしのぐ 深まる孤立、政治に期待できず

変異する民意 2021衆院選(1)

 コロナ禍は暮らしに直結する政治という存在を再認識させた。収束への道筋やコロナ後の絵図が見えない中、政治に向ける人々の意識は変わりつつある。19日公示の衆院選(31日投開票)を前に、変異の萌芽(ほうが)を東北で探る。

学生向けに実施された食料の無料配布。困窮する学生は声を上げられずにいる=6月16日、滝沢市の岩手県立大

通帳残高139円

 カラフルな車列が滝沢市を通過した。岩手県内を走る東京五輪聖火リレー初日の6月16日、同市の短大2年芳賀健斗さん(19)は、リレーに伴走する司会者の誘導係をした。

 「どれだけの金がかかっているんだろなあ」。華やかなパレードと自分の暮らしぶりの落差に嘆息した。

 財布の中には千円札2枚のみ。通帳の残高は139円。福島市の実家からの仕送りまで半月近くあった。

 新型コロナウイルス禍で困窮する学生らを支援する市の事業に申し込み、割り振られたアルバイトが誘導係だった。

 仕事が終わり大学に戻ると、学生向けに市民団体が無料で食料を配っていた。列に並び、米や缶詰を受け取った。

 オンライン授業になじめず、学費節約のため昨秋から半年休学した。4月の復学後はバイト先が見つからず、家賃と光熱費を除き月1万円でしのいできた。

 「朝飯は抜き。昼はポップコーンで腹を膨らませたりしてしのいだ」。コロナ禍で収入が減り、会社員の父親がバイトを始めた実家をこれ以上、頼るわけにもいかなかった。

 国を挙げた一大イベントに参加した高揚感はない。日本勢のメダルラッシュにも、気分は盛り上がらなかった。「オリンピックに使われた税金のほんの一部でも、苦しむ若者に回してくれればいいのに」。

学内に友なし

 仙台市内の大学生らが昨年11月、交流団体「はぐね」を発足させた。代表の大学2年狐野彩人(このさいと)さん(20)の背中を「孤独感」が押した。

 入学後に運動部に入ったが、コロナで練習機会は少なく、秋に退部した。授業もオンライン続きで、学内の友人はほとんどいない。

 同じ悩みを抱える学生向けに、はぐねはボードゲーム大会などのイベントを毎月開く。さまざまな相談への対応や食料の配布もする。

 「大学や役所には小さな悩みを相談しづらいし、事務手続きも面倒。学生同士なら壁は低い」

 6月、市内の政治団体が開いた政策討論会にパネリストとして呼ばれた。気乗りしなかったが「はぐねのPRのため」参加した。

 主催側は学生の貧困やオンライン授業の弊害を話してほしそうだった。あえて触れず「学生はシャイで悩みを抱え込んでいる。もっと声に耳を傾けてください」と訴えた。勝手な尺度で決めつけず、若者の実態に興味を持ってほしい-という気持ちがあった。

 終了後、参加者の地方議員らが笑顔を浮かべて名刺を渡してきた。

 「政治で生活が良くなった体験をしたことがない。だから、頼ろうとか関わろうとか思わない。自分たちの困り事は、自分たちで解決していく」。名刺をどこにしまったか忘れた。

「生活充実せず」4割超

 コロナ禍で精神的、経済的に追い込まれる学生が増えている。

 全国大学生協連が7月、全国の大学生に実施した調査では、現在の学生生活が「あまり充実していない」「充実していない」学生が計44・7%と、感染拡大前(2019年秋)から33・5ポイントも増加した。

 昨秋時点でのアルバイト月収の平均は、下宿生が前年同期比21・5%減の2万6360円、自宅生は8・6%減の3万7680円。大学などへの政府のコロナ対策は「全く評価できない」「あまり評価できない」が計58・6%で、「大いに評価できる」「評価できる」の計25・9%を大きく上回った。

 若者の間で先行きへの悲観論が広がる。日本財団(東京)が19年秋、日本など9カ国の17~19歳に自国の将来を尋ねると、「良くなる」は日本が9・6%と突出して低かった(グラフ)。

 衆院選は国の未来を選択する機会となる。同財団が8月、17~19歳を対象に実施したアンケートでは「投票する」「たぶん投票する」が計55・2%。「重視する問題」のトップはコロナ対策など「保健衛生」だった。

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