「ゴルゴ13」の言葉に学ぶ コロナ、凶悪事件に揺らぐ現代生き抜くヒント

 謎の超A級スナイパーが暗躍する劇画「ゴルゴ13」。奇跡的な狙撃力を持つ主人公は、鋭い分析と合理的な判断で、難局をスマートにくぐり抜ける。新型コロナウイルスのまん延や相次ぐ無差別殺傷事件に揺らぐ昨今。現代を生き抜くヒントとなるゴルゴの言葉を学ぶべく、業界人や愛読者に「依頼」を出した。話を聞かせてもらおう…。
(生活文化部・江川史織)

記念特別展で報道陣の質問に答えるさいとうさん=2018年7月20日午後5時ごろ、盛岡市の岩手銀行旧本店「赤レンガ館」

PART.1  覚悟を示す

単行本66巻「ロックフォードの野望 謀略の死角」から((c)さいとう・たかを/さいとう・プロダクション/小学館)

 作者の劇画家さいとう・たかをさんが手掛けた全作品の原画約11万枚を収蔵する横手市増田まんが美術館。大石卓館長(51)は「さいとう・たかを劇画文化財団」の理事を務め、制作現場にも足を運ぶ。米中央情報局さながらの事情通だ。

 大石館長が選んだのは、「俺は…この目で見た事しか、信用した事がない」。依頼人から死んだはずの元アルゼンチン大統領が実は生きていたと明かされ、顔色変えずに放ったせりふだ。

 大石館長は「コロナ下では、インターネット上の不確かな情報で感染者を差別、中傷する人が続出した」と指摘。自分の目で物事を見て、真贋(しんがん)を見極めることが、仕事や人付き合いでも大切だという。

 「10%の才能と20%の努力…そして、30%の臆病さ…残る40%は…『運』だろうな」は、依頼人に「プロの条件」を問われた際の一言だ。「ゴルゴなら自信が70%と言えるところ。用心深さとどんな結果も受け入れる覚悟を感じる」

 日常では、新しい仕事に挑戦するときに思い出す言葉だという。「失敗しないか不安になるが、『40%は運』と思えば気持ちが楽になる」と説明する。

 「暗殺者は社会的には許されない。だが、ゴルゴの言葉から、人生の教訓や指針が得られる。漫画の魅力である多様性が表れた作品だ」

「緻密な設定と徹底した描写に吸い込まれる」とゴルゴの魅力を語る大石館長

PART.2  細心の注意

単行本147巻「三人の狙撃手」から((c)さいとう・たかを/さいとう・プロダクション/小学館)

 次なる「刺客」は、東北大研究推進・支援機構「知の創出センター」副センター長の高木敏行特任教授(67)=機械工学=だ。「社会勉強の教科書」と賞し、単行本全203巻を所有する。

 「臆病さをうかがわせる言葉が印象的」と高木教授。依頼人の上着に盗聴器を仕掛けたゴルゴが「なんの予備知識もなく依頼人に会うほど、おれは自信家じゃないんでね」とつぶやく。

 「細心の注意で、依頼人すら疑う。用意周到ぶりに感服する」。学会での発表や授業では、あらゆる質問に対応できるよう資料を読み込み、入念な準備を心掛けるという。

 社会に旅立つ学生に伝えたいのが「容姿や言葉だけで俺を同胞と、判断するのは勝手だが、それは、日本人が持つ一番危険な、センスだな」。国籍不明のゴルゴを「同じ日本人」と決め付け、仲間意識を抱く依頼人を両断する。

 民間企業での勤務経験もある高木教授。「同僚でも考え方や価値観が違うことがある。先入観を持たずに人と接するべきだと感じた」とかみしめる。

 「原発事故を予見したようなストーリーもある。重大事件が起きるたびに、ゴルゴだったら問題をどう解決するか想像する」

「海外出張でゴルゴだったらどのホテルに泊まるか想像するとわくわくする」と話す高木教授

 社会情勢が目まぐるしく変化する現代。ゴルゴのように不測の事態に備えるには、余計な口を利いていないで作品を読むことだ…。

作者・さいとうさん、岩手にゆかり 地元と気さくに交流

 昨年9月に84歳で亡くなったさいとう・たかをさんは、妻が盛岡市出身という縁で花巻市に別邸を構えていた。交流のあった地元の人々に、思い出や人となりを語ってもらった。

 「話の面白い人だった」と振り返るのは、妻のおいで盛岡市肴町商店街振興組合の佐々木大理事(47)。さいとうさんは少年時代、なぜ1足す1が2になるのか疑問を持ったという。「答えは『人間が決めたから』。無意識にルールに縛られていると言う。普通の人は考えない」と驚く。

 「猛烈な創作意欲で、超人的な仕事量をこなしていた」と佐々木さん。ピーク時は月間700ページを描き上げ、2、3日の徹夜は当たり前。「絵やストーリーに妥協はない。お金を稼ぐより、読者を楽しませることに徹底していたのでは」と推察する。

 佐々木さんは2018年、ゴルゴ連載50周年記念特別展の盛岡展開催に合わせ、商店街でイベントを企画。さいとうさんは店主らと握手や記念撮影をしながら商店街を回った。「久々に街に活気が戻った。今も語り草だ」と感謝を込める。

さいとうさんのサインを手にする加藤さん。藤子不二雄Aさんら漫画仲間の寄せ書きも並ぶ=花巻市の新亀家

 巨匠の普段着はトレーナーにジャンパー。さいとうさんが行きつけにしていた花巻市の日本料理店「いしどりや懐食 新亀家」の加藤綱男社長(84)は「どこのおじさんかと思った」と第一印象を語る。

 さいとうさんは好物のうな重を毎回注文。毎年8月、地元の花火大会の日は家族やスタッフ計約30人を連れ、屋上のビアガーデンで見物に興じた。

 「気さくで穏やか。年が近く、同級生のような感覚で世間話をしていた」と加藤さん。最終回の結末を尋ねると、「頭の中にある。マル秘だ」と笑ったという。

記念写真に収まるさいとうさん(左)と加藤さん
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