「仙台四郎」ってどんな人? 市民の根強い信仰集める「福の神」
仙台市内を中心に、商売繁盛の「福の神」として根強い信仰を集める「仙台四郎」。いがぐり頭にニコニコした表情が印象的で、着物姿で腕組みするユーモラスな男性がその人です。不景気になると御利益にあやかろうと過去に何度かブームが起きましたが、新型コロナウイルス禍が続く今はどうなのでしょう。
(編集局コンテンツセンター・小沢一成)
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青葉区一番町の飲食店「伊達藩長屋酒場」では2010年7月のオープン以降、等身大の仙台四郎の人形がいろりを囲むカウンター席を陣取る。隣の席が人気といい、一緒に記念撮影したり酔って人形に話し掛けたりする人も。工藤桂一郎店長は「お客さんと一体感が生まれ、御利益も倍増です」と笑顔を見せる。
新型コロナの影響で落ち込んだ客足は3月以降になって戻りつつあるが、急な需要の回復にスタッフの確保が追い付かないという新たな悩みも浮上。「店内が満席になり、みんなが笑顔で楽しめる場所に戻ってほしい」と工藤店長は願を掛ける。
「仙台四郎安置の寺」で知られる青葉区中央の三瀧山(みたきさん)不動院は仙台四郎の座像を祭っている。仲見世には土製の置物や額入り色紙、のれん、Tシャツなど縁起物の仙台四郎グッズがずらりと並ぶ。
「訪れるのは商売している人が多い。不景気になってなおさら」と売り場担当者。新型コロナ禍で地域経済が疲弊する中、当地発祥の「福の神」にすがる思いは強まっているのかもしれない。
市教委が2010年3月にまとめた民俗文化財調査報告書によると、市内の中心商店街の約200軒中、約14%の27軒が仙台四郎を祭っていた。報告書は「自由な発想で祭ることができる身近な福の神ゆえに、急速に定着してきた」との見解を示している。
仙台四郎は明治時代に実在した人物だ。1933(昭和8)年発行の「仙台人名大辞書」(菊田定郷著)によると、北一番丁(現在の宮城県庁北側付近)の鉄砲師の家に生まれ、生家が火の見櫓(やぐら)の下にあったことから「櫓下四郎」とも呼ばれた。生年は江戸末期とされる。
知的障害があってほとんど話せなかったため「四郎ばか」などとからかわれていたが、「彼がふらりと立ち寄る店は必ず繁盛し、彼が抱く子どもは丈夫に育つ」(三瀧山不動院)と言われ、街の有名人だった。当時の新聞記事にもたびたび登場している。
1885(明治18)年5月にあった仙台藩祖伊達政宗の没後250年祭では、派手な姿の仙台四郎が山車の先導役を務めた様子が新聞記事になっている。郷土史研究家の故逸見英夫さんはかつて河北新報社の取材に「生きながらにしての福の神だった」と評した。
仙台四郎がどのようにして信仰を集めるようになったのかは定かでないが、少なくとも大正時代には市内の写真館が仙台四郎を「福の神」とする写真絵はがきを製作・販売し、一般に出回っていた。その後、不況などを背景として戦前や戦後に仙台四郎ブームが起きた。
市歴史民俗資料館の畑井洋樹学芸室長は「仙台四郎は新しいタイプの民間信仰で、実在の人物を神として扱うのはあまりない。ある程度の人から愛され、もともと福の神的な要素があったから、これだけ残っているのだろう。平成以降は街の一つの文化として定着してきた」と指摘する。
仙台人名大辞書によると、仙台四郎は1902(明治35)年ごろ、47歳で福島県須賀川町(現須賀川市)で死去したとされる。しかし、さらに後年まで生きていたという説もあり、没年は不詳だ。
河北新報に当時の仙台四郎に関する記事があるかどうか調べたところ、没後とされる1909(明治42)年12月17日付に「櫓下の四郎君」と題する短信を見つけた。記事は「仙台の名物男」「天下御免の無賃乗車者」と紹介し、四郎が仙台に舞い戻ってきたという目撃情報を伝えている。
もしや定説を覆す新史料? 畑井室長に尋ねると「記事には『侠客に見える』と書いてあるので、別人かもしれない。汽車賃がただになるから、四郎をかたった人がいたのかもしれない」との答え。「福の神として扱われる以上、突然現れ、突然消える存在であっていい」と話した。
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