甲子園沸かせたカット打法 花巻東・千葉さん「あの経験が財産」

 岩手県一関市役所に4月入庁した新人職員千葉翔太さん(26)は元高校球児だ。2013年夏の甲子園大会、岩手・花巻東高で準決勝まで進んだ。156センチ、56キロの2番中堅手。ファウルで粘り出塁を狙う「カット打法」で話題をさらった。(一関支局・金野正之)

一関市スポーツ振興課で勤務する千葉さん

 準決勝の前の3試合、千葉さんは15打席7安打5四球。驚異の出塁率8割を誇った。済美高(愛媛)との3回戦は剛腕安楽智大投手(現東北楽天)から3安打。準々決勝は鳴門高(徳島)の投手に5打席で41球を投げさせ、全て出塁した。

 巧打の真骨頂がカット打法。2ストライクに追い込まれても際どい球をさばいてしのぐ高等技術だ。投手が根負けして出塁を許せば、狙い通り。

 千葉さんは奥州市胆沢出身。歩む道を探るようになった原体験が、同じ水沢リトルに所属した大谷翔平(米大リーグエンゼルス)との出会いだ。1学年上の大谷は中学1年で約170センチ。120キロの速球を投げた。07年の東北大会で6回18打者から17奪三振。2番手左腕の千葉さんは別世界の選手に感じた。「負けたくないとか思って、競えるレベルでない」

 花巻東では甲子園のヒーローだった大谷らからチームを継いだ12年秋、岩手県大会でまさかの初戦敗退。「先輩たち同様、勝てると思っていた。甘かった」。その後約1週間、選手たちは足りないものは何かを議論し、洗い出した。

 「小柄な自分が役に立つには?」。千葉さんが自問した末の結論は「多く塁に出ることだ」。冬場、1日3000球近い打撃の猛練習をこなし、カット打法を磨いた。そして13年夏の甲子園、大谷の代を超える準決勝にたどり着く。

 ここでカット打法は大会本部に問題視される。「意図的にファウルするような打法は審判員がバントと判断する場合もある」という特別規則を引き合いに。2ストライクでカット打法をすれば三振と判定されかねない。世論も巻き込み、賛否が分かれた。「高校生らしくない打法」「主催側はなぜ今更指摘するのか」

 延岡学園高(宮崎)との準決勝。千葉さんはカット打法を自粛した。「引き出しの一つに過ぎない」と割り切って。結果、敗退した。「人生で一番悔しい」。自分流を封じられたことより、東北勢初の全国制覇の悲願がならず、号泣した。

準決勝に敗れた後、整列して悔し涙を流す花巻東高の千葉さん(左端)=2013年8月、甲子園球場

プロ諦め一関市役所入庁、クラブチームで都市対抗目指す

 日大、九州三菱自動車と進むも左肩の大けがもあり、20年冬にプロへの道を諦めた。一関市スポーツ振興課に属する今も水沢駒形倶楽部(奥州市)で野球は続ける。6月3日、山形県で都市対抗大会出場を懸けた2次予選東北大会に臨む。

 今回の取材で野球人生で得たものは何かを聞くと、千葉さんは言った。「自分が成長するためにどう考え取り組んだらいいかを、花巻東で楽しく学べた。あの経験が財産」。岩手が大谷ら有力選手を輩出し続ける背景が、言葉ににじむ。

 大谷のような別格のスターになれなくても、努力で自分なりの花は咲かせられる。それを甲子園で、千葉さんは体現していた。

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