投票先選択の参考に「ボートマッチ」 一つの社会をみんなでつくる第一歩に

「メディアージ」密着取材(3)

 「ボートマッチ」はアンケートのような感覚で質問に答えていくと、各候補者がどれだけ自分の考えに近いかを数値で示してくれるインターネットのサービスだ。英語の「vote(投票)」と「match(一致)」を掛け合わせた言葉で、近年は国政選挙のたびに大手メディアなどが実施している。

 「有権者に情報を届けるのは難しいと痛感する中で、気軽に候補者の考えに接することができるハードルの低さがいい」。2017年の仙台市長選から独自のボートマッチに取り組んでいるNPO法人メディアージ(仙台市)の常務理事、漆田義孝さん(39)は導入の狙いを語る。

 2日には、10日投開票の参院選宮城選挙区(改選数1)で候補者5人を対象にしたボートマッチを公開した。設問数は24問で、政治信条を問う7問と具体的な政策を尋ねる16問、重視する政策を複数選んでもらう1問という構成だ。

ボートマッチの設問案について議論する漆田さん(右)ら=6月9日、仙台市青葉区北目町の事務所

 例えば「憲法9条に自衛隊の存在を明記するという改憲案について」という設問に対し、回答として①憲法への自衛隊の明記に賛成②先に、自衛権の行使の範囲について議論すべき③9条改正には反対④9条全体を改憲し、他の主権国家と並ぶ軍隊を持つべき⑤無回答(分からない)―という五つの選択肢を用意した。

 「毎回、生みの苦しみがある」と漆田さん。青葉区の事務所で6月9日にあった打ち合わせでは、政治学を専攻していた会社員や元国会議員秘書、フリーライター、プログラマー、大学生ら20~40代の7人がオンライン併用で集まり、ボートマッチの設問案について活発に意見を交わした。

 「『憲法改正に賛成か反対か』では、あまりに大ざっぱ過ぎる」

 「各政党の憲法改正論の要点を整理し、どれに近いか、というのはどうか」

 「自民党改憲草案にある緊急事態条項の議論が盛り上がったのは、海外で強力なロックダウン(都市封鎖)があったから。今はニュース性が弱い気がする」

 「国民的な関心が高いのは、自衛隊を明記するかどうかではないか」

 進行役を務めた漆田さんは基本方針として①争点となっているテーマ②候補者によって回答がばらけそうなテーマ③争点ではないが、有権者に考えてほしいテーマ―の3点を示した。メディアージ顧問の会社員池亨さん(45)は「議論していると、あっという間。毎回、悩むんだ」と話す。

 「中央のメディアと違い、地方色を出したいという気持ちはある」と漆田さん。地域課題を踏まえ「農業政策について、特に重視するものは」「経営が困難な地方の鉄道やバス路線の維持について」といった設問も盛り込んだ。「国会議員を目指す人に宮城のことばかり考えてもらうのはどうなんだろう」という葛藤もあるが、立場が異なるメンバーらが丁寧に議論を重ねることで着地点を探る。

多様性に富んだメンバーが集まったメディアージの打ち合わせ。政治的なバランスの確保に心を砕いている=6月9日、仙台市青葉区北目町の事務所

 ボートマッチで結果が出るまでの所要時間は早ければ5分程度。利用者と同じ設問に答えた候補者の回答と比較し、一致した割合「マッチ度」を百分率で表示する。算出に当たり、「無回答(分からない)」は一致したと見なさない、といったルールを定めている。

 メディアージのボートマッチは今回の参院選で5度目。当初からシステム開発を手掛ける宮城野区のプログラマー竹中陸さん(31)はボートマッチについて「自分の心の声に耳を傾けるサービス」と説明する。「自分が擬似的に候補者になるような感覚があり、回答しながら自分の考えってどうだったんだろうと、自分に深く聞く」からだ。

 メディアージ版ボートマッチの面白さは、設問の独自性にあると感じている。「メンバーのバックグラウンドが多様だからこそ出てくるような設問が多い」と指摘。毎回、延べ数千人が利用し、交流サイト(SNS)で「意外な候補とマッチした」などと反響が広がる。

 竹中さんは「ボートマッチの設問は一部を切り取ったに過ぎず、候補者と100%同じ考えはあり得ない。それでも、やらないと分からない学びがある」と強調する。

 今後に向け、会員登録すると回答を保存できる仕組みを検討している。「参院選なら3年後、6年後に自分の考えはどうだったのか分かると面白い。長く楽しめるサイトにしたい」と、さらなる進化に意欲を見せる。

打ち合わせで積極的に発言する佐々木さん(奥)。「バックグラウンドが違う人と対話し、一つのことを作り上げることに意味がある」と話す。手前は池さん=6月9日、仙台市青葉区北目町の事務所

 太白区のフリーライター佐々木佳(かい)さん(32)は「社会の分断」に問題意識を持っており、今回初めて設問作りに参加した。「ボートマッチは投票先の参考にするだけではない。一つの社会をみんなでつくる第一歩になると思っている」と力を込める。

 普段は考えないような政治的な課題や国際問題などの設問に向き合い、回答を求められると、「自分が何も考えていないように見えて、意見を持っていると分かる」と佐々木さん。「身近な関心と政治との距離は意外に近い。自分の住んでいる世界に閉じこもるのは居心地がいいかもしれないが、社会に無関心ではいられない自分にも気付いてほしい」と期待する。

メディアージの「参院選ボートマッチ2022」
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