候補者の演説・インタビュー動画をネット配信 「発言はノーカット」が編集方針

「メディアージ」密着取材(2)

 「収入が増えず、物価も上がり、国民生活は苦しい状況が続いている。国民が安心して暮らせるよう、国としてどのような手だてを取るべきだと思うか」

 「今後、子育て世代の国会議員が活躍するために、どのような政策が必要か」

 仙台市泉区の大学生阿部優香さん(24)は6月中旬、NPO法人メディアージ(仙台市)のインタビュアーとして、参院選宮城選挙区(改選数1)の立候補予定者にマイクを向けた。緊張でつっかえつつも、「抽象的な言葉は理解できないから」と質問を重ね、粘り強く本音に迫った。

「政治家も普通の人間。全然、遠くない」。参院選宮城選挙区の立候補予定者にインタビューする阿部さん=6月18日、仙台市青葉区

 質問内容は事前にメディアージ内で議論し、各立候補予定者の人物像や政策を考慮してまとめた。議論のメンバーの顔触れは、政治学を専攻していた会社員や国会議員秘書経験者、フリーライター、学生などさまざま。多様な参加者が集まることで、特定の主義・主張に偏らないバランスを保つ。

 阿部さんがインタビュアーを務めるのは2021年の仙台市長選と衆院選に次いで3度目。19年の参院選の時、「若者が投票に行かないのは大人が悪い」と地元のテレビ番組で話していた同法人常務理事の漆田義孝さん(39)に共感し、ツイッターでつながったのが縁だ。

 「選挙は非日常を味わえる。『フェス』みたいな感じかな」。候補者へのインタビューや街頭演説の取材を通じて「人間っぽくないイメージがあった」という政治家が、自分と同じ「普通の人間」と映るようになった。

 市内の大学生らでつくる選挙啓発ボランティア「Activate(アクティベイト)仙台」の一員でもある阿部さん。各種選挙で低投票率が相次ぐ中、「打開策はないので、どうしたらいいか、やりながら考えている」と言い、選挙のたびにこみ上げるワクワク感を「若い人にも味わってほしい」と活動に打ち込む。

 メディアージは東日本大震災直後の11年3月、被災地から情報を発信しようと立ち上がった。常務理事の漆田さんは「あれだけ大きな出来事があっても、世の中はそう簡単に動かない。政治でしか解決できない問題があるのに、政治との距離が遠い」と当時の歯がゆさを振り返る。家族や友人、同僚らと気軽に政治を語れる場づくりを目指し、選挙情報に力を入れるようになった。

 立候補者の街頭演説を撮影し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信を始めたのは13年の参院選。インターネットを使った選挙運動の解禁とちょうど重なった。以降は仙台市長選や宮城県知事選、衆院選などで候補者への単独インタビューも実施し、コンテンツを充実させてきた。

候補者の街頭演説を撮影する漆田さん。報道機関のカメラとともにレンズを向けた=6月22日、仙台市青葉区

 漆田さんは10年近く「ネットと選挙」の現場に身を置く中で、大きな環境変化を肌で感じている。「ネトウヨ」「パヨク」といったスラング(俗語)に象徴されるような特定の政治思想に基づく情報が、交流サイト(SNS)をはじめ、ネット空間にあふれるようになってきたからだ。

 「大体の傾向として、ネット上はすごく偏っている」と指摘する漆田さん。「世界各国の料理が何でも食べられる場所に来たのに、毎日、目の前の唐揚げ定食ばかり食べているようなもの。『俺は唐揚げが好きだからいいんだ』と言われると反論しにくいが、もったいない」と、例え話を交えて現状を憂える。

 ネットを巡っては、自分の考えに合う情報に囲まれ、異なる意見に触れにくくなる「フィルターバブル」現象や、似た思考を持つ人々が集まって共鳴することで、意見が特定方向に先鋭化する「エコーチェンバー」現象などが問題視されている。16年の米大統領選ではフェイク(偽)ニュースが注目された。

 一方、ネット選挙の解禁に伴い政党や候補者のサイドから発せられる情報が急増したことで、漆田さんは「当事者にとって都合のいい情報しか出てこない可能性が十分にある」と懸念を強める。自由な言論空間に潜むリスクが顕在化しつつある状況だからこそ、候補者へのインタビューのように、第三者が丁寧に取材して伝える重要性がますます高まっていると気を引き締める。

メディアージが取材時に着用する腕章。街頭演説の動画配信は2013年の参院選から続けている=22日、仙台市青葉区

 メディアージは参院選公示日の22日夜、各候補者の第一声の動画をユーチューブで公開した。「主要候補と泡沫(ほうまつ)候補」のような区別は一切せず、全ての候補者を同列に扱うのが大前提。その上で、文字数や収録時間に制約がないネットの特性を生かし、「候補者の発言はノーカット」を編集の基本方針に据えている。

 新聞社や放送局の選挙報道を巡っては「候補者にとって都合の悪いところだけを切り取るなど恣意(しい)的だ」「有力候補しか取り上げない」などの声が絶えない。そうしたメディア批判の受け皿としての役割も意識している。

 漆田さんは「時間が長いから、あまり見てもらえない」と苦笑しつつ「メディアージの動画を見れば、候補者が最初から最後まで何を言ったかが分かる。アーカイブ(記録保存)性を大切にしたい」と強調。「自分の中で多様性を確保したい人が、最終的にたどり着くのがうちのコンテンツなのかな」と推し量る。

NPO法人メディアージのユーチューブチャンネル
河北新報のメルマガ登録はこちら

企画特集

先頭に戻る