男性の育休取得へ「多能工化」が鍵 業務効率化で人材定着 事業継続でも利点実感

 男性の育休取得推進などを目指す改正育児・介護休業法が4月から順次施行されている。人手が限られる中小企業にとってハードルは低くはないが、東北では業務見直しや効率化で取得を促し、人材定着などの好循環を生んでいる例もある。(生活文化部・菊池春子)

日本酒のラベルを1本ずつチェックする我妻さん。「職場で育休取得をサポートしてもらいありがたかった」と話す

6工程のうち3工程以上対応

 大崎市松山の酒造会社一ノ蔵。製品課の我妻永望さん(24)は第1子誕生を受け、昨年末から今年1月にかけて育休を取得した。従業員129人の同社で男性として3人目の取得者となった。現在は瓶詰め作業や検品を行う「瓶詰め棟」で働いている。

 育休期間は18日間と17日間の2回に分け、それぞれおむつ替えや家事全般を担った。妻は保険会社の営業職正社員。我妻さんは「共働きでの子育てに向けて貴重な時間になった。仕事と両立しやすい環境はありがたい」と話す。

 日本酒生産の現場は男性従業員が多くを占める。きめ細かい品質管理などの技術が求められ、安定出荷には熟練した社員の存在が欠かせない。少子高齢化が進む中、一ノ蔵では人材の確保と定着に向けて男性の育休取得を推進してきた。

 中小で育休が浸透しない背景には、従業員同士での仕事のカバーが難しいという事情がある。一ノ蔵では近年、人手が回らなくなる事態を避けるため、1人が複数の作業を担う多能工の育成に取り組んできた。製品課副主任で工程全般に通じていた木村和貴さん(31)が、2018年に男性で初めて育休を取ったことも契機となった。

 若手育成を兼ね、製品課では洗瓶や充填(じゅうてん)、殺菌など主要6工程のうち3工程以上に対応できるよう、ローテーションの人数を増やして従業員に習得してもらっている。第2子誕生後の今年2月にも育休を取得した木村さんは「以前より職場が回りやすくなったと感じた。若手は共働きが多く、ワークライフバランスは重要だ」と話す。

 高橋雅之課長(52)は「誰かが休んでもカバーできる態勢を意識して目指してきた」と強調。新型コロナウイルス禍で、事業継続計画(BCP)の観点からも多能工化の利点を実感したという。

 18年以降、製品課と原酒課、グループ会社で男性計4人が育休を取得した。同社はグループで25年3月までに取得率を現在の30%から50%とする目標を掲げ、他部署への広がりを目指している。

「家庭が安定してこそ」

 男性の育休取得に向け、独自の取り組みを長年進めてきた企業は少なくない。

 鶴岡市の菅原物流(従業員70人)は、面談や助言を通じて男性従業員に取得を推奨してきた。深夜や早朝に業務が及ぶこともある運送業。従業員の大半を男性が占める。「家庭が安定してこその仕事。子どもの誕生時に家族との時間を大事にしてほしい」との配慮だった。

 13年以降、9人が7日~2カ月の育休を取得した。菅原真実総務管理部長(55)は「育休経験者は頼もしいリーダーとなり、離職者が減る効果もあった」と振り返る。

 全国的にも高い3世代同居率で知られる山形。これまでは祖父母が育児をサポートしやすい環境にあったとされる。菅原部長は「70代まで働く人も増えており、若い夫婦で育児できる環境整備の必要性は高まっている」と指摘した。

取得率だけではなく柔軟な働き方を

 全国の男性の育休取得率は14%で、企業規模別では中小はさらに低い傾向にある(表)。専門家は数字の底上げだけにこだわらず、労働者に多様な働き方を提案するよう勧める。

 「忙しい現場でも1人目の取得者が出れば後が続きやすい。業務の見直しで職場の風通しが良くなる場合もある」。仙台市青葉区のハーモニー社会保険労務士法人の社労士伊藤由美子さん(49)が指摘する。

 多くの事例を見てきた経験を踏まえ、「取得率が注目されがちだが、育休だけを目的化させないことも大事だ」と強調する。

 2021年の各県の調査によると、宮城の男性の育休取得率は全体が14・6%、山形が15・1%。従業員30~99人に限ると両県それぞれ9・7%、8・5%にとどまった。

 仙台市内の自動車関連会社の経営者は「土日も営業しており、整備の現場などはカバー態勢づくりが難しい」と内情を明かす。4月以降、子どもが生まれる複数の男性従業員に意向確認したが、取得希望者はいなかったという。

 育休中は給料は支払われないものの雇用保険から給付金が支給される。最初の半年間は一般に手取りベースで休業前の8割程度となるが、収入減を懸念して取得をためらうケースも少なくないとされる。

 伊藤さんは「時差出勤などの手段もある。柔軟に考え、幅広い選択肢を示すことが、男女共に育児できる環境へのステップになる」と話した。

[改正育児・介護休業法]子どもが生まれる場合、従業員への育休取得の意向確認が企業の義務となった。取得しやすい職場環境の整備も求められる。10月には産後8週以内に最大2回に分けて計4週分の休みを取れる「産後パパ育休」が導入されるなどする。政府は2025年までに男性の取得率を30%まで引き上げる目標を定めている。

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