バキッ! クマの一撃で鼻や頬の骨が折れ、眼球破裂も 「車がつぶれる事故に匹敵」 専門家に症例を聞く
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クマの市街地への出没が頻発し、その脅威は私たちの身近に迫っている。クマによる外傷はどれほどの衝撃で、被害に傾向はあるのか。昨年、全国最多の負傷者を出した秋田県で、けがの程度が重かった20人分の症例を分析した秋田大病院高度救命救急センター(秋田市)の中永士師明(はじめ)センター長に聞いた。(秋田総局・柴崎吉敬)
秋田大病院・中永士師明センター長
爪と牙の鋭いクマの攻撃はすさまじく、人が受ける力は車がつぶれる交通事故や高所からの転落に匹敵する。患者の傷口から折れた爪が見つかるほどクマは全力を出す。「命に別条はない」というと大したことはないと思われがちだが、別条がないよう何とか治療しているのが実態だ。
20人の受傷部位は顔が9割、頭部が6割を占めた。鼻や頬など顔面の骨折も半数いて、一撃で「バキッ」と複数の骨が折れる。3人は眼球が破裂した。めくれた顔の皮膚を戻したり、現場に落ちた鼻を付け直したりしたケースもあった。気管損傷は特に危険で、チューブを入れて気道を確保する処置をした。
襲われる場所は、従来ほとんどが山間部だったが、都市部での被害が急増している。20人のうち、市街地と田畑を併せた生活圏は7割以上に及び、いずれも7~11月に集中。中でもピークは10月(6人)だった。
傷が治っても、被害者の多くは長い間、心身にダメージを負い続ける。傷口からの感染症や骨髄炎につながるリスク、失明に加え、嗅覚が戻らないとか、唾液や涙が止まらなくなるといった後遺症が問題となる。
望ましいのはフルフェースのヘルメット
心的外傷後ストレス障害(PTSD)も見られる。20人は大半が生活圏にいて農作業(6人)や散歩(5人)、仕事(4人)の最中だった。自宅近くなどで遭遇した人ほどショックは大きく、長期にわたる影響を調べる必要がある。
被害を防ぐには、出没情報が出た時は山に入らないことが大前提。遭遇時は撃退スプレーなどを使う余裕もないとみられ、いかに頭部を守るかが重要だ。望ましいのはフルフェースのヘルメットだが、農作業中なども帽子のようにかぶりやすく、衝撃を和らげる製品の開発に期待したい。
今年の負傷者に、かがんで手で頭部を覆う姿勢を取り、クマから頭を守ることができた例もあった。こうした心構えも大切だ。
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[なかえ・はじめ] 1963年生まれ。奈良県立医科大医学部卒。岩手医科大高次救急センター助手、豪プリンスオブウェールズ病院特別研究員、秋田大病院長補佐などを経て2021年4月から現職。医学博士。奈良県斑鳩町出身。
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