宮城・石巻出身のポーラ社長及川さん、仙台で企業の女性リーダーと対話　「『誰か』にならなくていい」

　化粧品大手ポーラ社長の及川美紀さん（５５）＝宮城県石巻市出身＝が仙台市内で、地元企業の部長級以上の女性らを前に講演した。県内企業１１社の役員候補や部長級以上の女性１１人が参加。講演後、「女性活躍」を期待される中での悩みなどを語り合い、及川さんが体験を交えて助言した。（せんだい情報部・菊池春子）

「活躍」の重圧や悩みを共有

　参加者の一人は「職場に女性の役職者が少なく、後輩から『○○さんのようにはなれない』と言われることがある」と明かした。及川さん自身「よく言われる」といい、「リーダーになりたくないと感じる要因は環境も大きい。社内の女性ネットワークをつくるなどして課題や情報を共有することも重要」と述べた。

　また「管理職の気むずかしい顔は自分が思う以上に空気を支配する。忙しいときは素直に周囲に伝えて」と助言。「管理職になると責任は増すが、会える人や見える世界が変わる。楽しさも発信してほしい」と促した。

　別の参加者は、ダイバーシティー（多様性）の推進に向け「男性の育休取得に対する周囲の理解の乏しさなど問題がある」と課題を挙げた。

　及川さんは「経営トップが方針を示した上で、自社のジェンダーバイアス（性差に基づく偏見）を客観的に確認することも有効だ」と指摘。管理職などを決める際、無意識に男性から選んでいないか、子どもがいるという理由で女性を排除していないか、一つずつ確認することを提案した。

　染みついた価値観をすぐに変えられないとしても、「経営層が自分や自社のバイアスの高さを自覚するだけでも違う」とも話した。

　女性が管理職に登用されると、「なぜ自分が」と自身を過小評価する傾向があるとされる。及川さんは「登用されたということは、何かを託してくれた人がいるということ。『誰か』のようにならなくても、自分にできることが必ずある」とエールを送った。

「昇進時のビジョンを描こう」　及川さんの講演から

　国内企業の役員や管理職に占める女性の割合は先進諸国と比べ際立って低く、登用に戸惑いを感じる女性も少なくないとされる。及川さんは講演で、自身の失敗談や経験した試練に触れながら「可能性にふたをしないで」と呼びかけた。

　「リーダーの役割は人の可能性を開くこと。自分に足りない部分があるからこそ、メンバーの強みを最大限に生かしたチームを構築できる」。及川さんは、自身がたどり着いたリーダー像を紹介した。

　失敗や挫折、女性であるがゆえの障壁は少なくなかったという。地方の女性の大学進学率は今より低かった。「女子大なら」という親の条件の下で東京への進学を果たした。

　ポーラに入社して約２年。同じ部署で働く夫と職場結婚した直後、販売会社への出向を命じられた。「辞めてもいいんじゃないか」という周囲の声もあったが、現場に飛び込み、販売の最前線のスタッフたちから多くのことを学んだ。「自分の原点」と振り返る。

　２８歳で長女を出産し、約２カ月で復職。長女の小学校入学後、試練に直面した。専業主婦の母親がいる同級生と出会った長女から、「仕事しないで」と求められた。

　「なぜ働くのか、深く問い直す契機になった」と及川さん。「お母さんは仕事がしたい」と伝える一方、周囲の協力を得て長女の要望も少しずつ形にして互いに納得できる道を探った。

　最大の挫折と転機が訪れたのは３０代半ば。昇進試験の不合格に落ち込み、ふてくされた。その態度が周囲にストレスを与えていたことが分かり「自分の影響力を過小評価しない」ことの大切さを学んだ。

　昇進してかなえたいことを問われ、あらためて胸の内を見詰め直した。「頑張りを認めてほしい一心で試験を受け、何をしたいのか、どんなチームをつくりたいか、というビジョンを欠いていた」。チームを一流にしたい、社会に貢献したい、女性のエンパワーメント（力づけること）をしたい…。思い描くビジョンが広がっていった。

　社長に就任し、ダイバーシティーやワークライフバランスの実現に力を入れ、ポーラの管理職の女性比率は３４％を超えた。「男女比の偏りは、従業員の能力開発をしていないということでもあり、企業として損失だ。今後も変化に向けたアクションを続けたい」と強調した。

　　　　　◇
　講演は仙台市などの「仙台女性リーダー・トレーニング・プログラム２０２４　エグゼクティブコース」の一環で１０日に開かれた。