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新たな輝きを【特集】アップサイクルの世界

 今年は巳み年。脱皮するヘビは復活と再生の象徴という。古いものや捨てられるものに新たな輝きを与えている人たちがいる。アップサイクル(創造的再利用)の世界をのぞいてみた。

■古い家具や一升瓶 ~新旧融合 唯一無二の逸品(月日工作舎)~

振り子時計の中身を取り除き、照明を組み込んだ壁掛け時計のショーケースライト(写真上中央・4万9000円)、一升瓶を活用した照明器具(写真上右から2番目・2万5000円)、古い引き戸とその鍵をアレンジした額縁(写真中段右・4万円)など多彩

 酒瓶をランプシェードにした照明器具や古い家具を使ったインテリア雑貨は、店主の山内健嗣さんのインスピレーションで生み出されたものばかり。「照明器具は茶色の一升瓶の上下をダイヤモンドカッターで切っているので、元が一升瓶だと分からない方が多いかも」と笑顔を見せる。原形を主張させない作品が多いのは「新たな価値を見いだして」という思いから。

 仙台市出身の山内さんは仙台工業高を卒業後、大手ハウスメーカーに就職。家具作りへの興味が高まり、東日本大震災後に退職し、石巻市など被災地の空き家物件のリノベーションに携わった。その後も石巻を拠点に独学で家具をリメークし、2015年に店舗を構えない家具の修理・製作店を立ち上げ、作品はイベントやネットショップで販売。17年に実店舗を構え、現在の店名に変更した。

 山内さんがこの道に入った当時は「アップサイクル」という言葉が浸透していなかったが、今では地元の人からの注文も多く、全国からオンラインショップの利用もあり、幅広い層に受け入れられていると実感している。

 「そのままだと捨てられてしまうものでも、手を加えれば今の暮らしに合う新たな使い方ができます。全く別の物に生まれ変わったときの意外性も面白いです」と穏やかに語る。

使わなくなったかもいを加工する山内健嗣さん

【DATA】
石巻市立町2-5-20
TEL090-2023-1261
※店舗は改装のため休業中で、今年春ごろに再開予定。現在は予約やWEB販売のみ対応

WEBサイト

■七夕飾り ~和紙の美しさ再発見して(はすのはねschool)~

使う素材で印象が変わるボールペン
七夕飾りの吹き流し部分。彩り豊かな和紙が美しい

 役目を終えた仙台七夕飾りを使った小物作りが体験できる。アクセサリーやミニ和傘といった多彩なプログラムがあり、一番人気はボールペンという。七夕飾りの花紙や和紙、ビーズなどを選び、ボールペンの空洞部分にオイルと共に入れれば出来上がり。和紙は金色が映え、花紙は透けるなど素材によって異なる美しさを見せる。

 代表の福井有美子さんは「3日間限りで廃棄されてしまう七夕飾りの美しさを、小物に生まれ変わらせることで長く手元に残せます。観光客に人気の体験ですが、地元の人こそ体験し、仙台七夕をもっと誇りに思ってもらえたらうれしいです」と語る。

 ボールペン作りは1本2000円。3日前までの予約を。空きがあれば当日も体験可能。

福井有美子さん

【DATA】
仙台市青葉区宮町3-9-38 仙台アートクラフトサロン
TEL050-6869-0366
営/19:00〜21:30(火〜木曜は10:00から)
休/不定休

Instagram

■麦芽かす ~独特の香り生かし菓子に(亀の子もなか本舗 紅梅)~

麦芽かすの乾燥、粉末化も店舗で行う。フィナンシェの賞味期限は製造日から1カ月

 気仙沼市の老舗菓子店が作る「KESENNUMA HITOTOKI」(170円)はクラフトビールを醸造する際に出る麦芽かすを原料にしたフィナンシェ。4代目の千葉玄武さんは近所のブルワリー「BLACK TIDE BREWING」の常連で、スタッフに「麦芽かすを大量に捨てている」と聞いた。

 菓子作りに生かせないか試行錯誤すること約半年。「まんじゅうなども試しましたが、麦芽かすは独特の香りが強くて。乾燥させて粉末にし、焼いて焦がしバターのようにしたらフィナンシェに合いました。香りを殺すのではなく、生かしたのがポイント」と笑顔を見せる。

 桜の塩漬けを用いた第2弾「Nadeshiko」(180円)を昨春発売。第3弾も検討中だ。

千葉玄武さん

【DATA】
宮城県気仙沼市魚町2-1-13
TEL0226-22-0469
営/9:00〜18:00
休/日曜
※田中店(気仙沼市田中174-1)でも販売

WEBサイト

■ランドセル ~卒業後も使える愛用品に(H’PLUS)~

さまざまなアイテムに生まれ変わる。パーツを生かしたアイテムも

 思い出に残るものが作れたら―。革小物の制作、修理を行うH’PLUSの阿部広美さんは、ランドセルのリメークを行っている。もともと専業主婦だった阿部さんは、ナイロン・革製品を制作するオイカワプロダクツで技術を学び、2021年12月に独立した。

 「今まさに小学生の娘が使っていますが、ランドセルは高価で6年間の思い出が詰まっています。卒業後も使い続けられる形で残せないかと考えました」と阿部さん。

 状態にもよるが、1つのランドセルからキーホルダー(1500円)などの単品オーダーはもちろん、財布やキーホルダー、眼鏡ケース、コインケース、トレーといった複数の製品を作るセットオーダー(4〜6品6300円から)が可能だ。

 ランドセルはできるだけ対面で預かり、思い出の傷や刺しゅう部分など、使いたい部位を確認しながら予算や要望に合わせて、生まれ変わらせるアイテムを決めていく。同じ色のランドセルでも糸の色によってアイテムの印象は大きく変わる。色合わせも楽しもう。

 ランドセルの持ち込みは主に土・日曜に受け付けている。時間を予約し来店を。遠方の場合、LINEで打ち合わせした後、ランドセルを送付する。予約状況により完成まで1カ月から半年程度かかる。

阿部広美さん

【DATA】
仙台市若林区沖野3-9-17 オイカワプロダクツ内
TEL022-765-6825(予約制)

WEBサイト

■カキ殻 ~人の心潤すアクセサリー(牡蠣殻クラフト Ostrica)~

ネックレス(左上、3850円)、ピアス各種(右上から時計回りに5280円、6660円、3300円)。1つ1つ表情が異なる作品に仕上がる
洗浄や消毒した後のカキ殻

 宝石のような輝きを放つアクセサリーが、元はカキ殻だというから驚く。七ヶ浜町のクラフト作家 加藤里衣さんは東日本大震災をきっかけに、宮城ならではの資源を使い、人の心に潤いを与えられるものを作りたいと考えるようになり、カキ殻を使ったアクセサリーやインテリア雑貨の制作を思い付いた。

 殻を漁師から引き取り、洗浄消毒を経て天日干しするまでの下処理も自ら行う。それをカット、研磨し、レジンでコーティングしてアクセサリーに仕上げていく。加藤さんは「制作時は防じんマスクを着用し、汚れてもいい服装で行います。とても根気がいります」と笑う。美しいアクセサリーを作る作業は優雅かと思いきや、意外と力仕事のようだ。

 アクセサリーに使わなかった部分はフレーク状にしてレジンで固め、トレーなどにする。「殻であっても漁師が大切に育てた資源だから無駄にしたくありません。いずれは肥料として活用するなど大規模にアップサイクルできる流れをつくりたいです」。加藤さんの夢は限りない。

加藤里衣さん

【DATA】
※作品はオンラインストアで購入できる。仙台市の「眞野屋」、松島町の「ザ・ミュージアムMATSUSHIMA」や宿泊施設「パレス松洲(まつしま)」のおみやげ処「かもめ屋」でも購入可能
TEL050-3574-2018

WEBサイト

■新たな価値生み出す場所(眞野屋)

店内のあちこちで活躍するアップサイクル品

 「温故知新」「美と健康」がコンセプトのセレクトショップ「眞野屋」。経営母体のジェーエーシー(青葉区昭和町)は、産業廃棄物処理やリサイクル事業を手掛ける企業だ。カフェやベーカリー、レストランを併設する店内では、同社がブランド展開する多彩なアップサイクル品が活躍。物販スペースの一角には震災廃棄物のコンテナ、商品のディスプレー棚には廃校になった学校のロッカー、洗面台には足踏みミシンなどを活用し、新たな価値を生み出している。

「新しい発見を楽しんで」と店長の竹ケ原菜那さん

【DATA】
仙台市青葉区昭和町1-37 ジェーエーシービル1階
TEL022-342-1755
営/中央売り場・カフェ10:00〜21:00、ベーカリー10:00〜17:30、レストラン11:00〜21:00
休/無休

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(河北ウイークリーせんだい 2025年1月16日号掲載)

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