「あの日から」第6部 地域と前へ 大槌・岡野茂雄さん 感謝のフェスに終止符

「おしゃっち」のホールに立つ岡野さん=2日

 ありがとうの気持ちをビートに乗せ、岩手県大槌町が東日本大震災から復興する姿を発信してきた。
 「おおつちありがとうロックフェス」が始まったのは2012年6月。会場は、あの日津波が襲来した大槌漁港だ。「THE STREET BEATS」「SA」ら人気ロックバンド、そして全国から観客8000人が集まり、熱狂の渦をつくった。
 実行委員長を務める地元の会社員岡野茂雄さん(45)は震災直後、音楽仲間たちに「復興支援への感謝の気持ちを伝えたい。フェスを開こう」と呼び掛けた。
 町では津波で1233人が犠牲になり、住宅3350棟が流失した。イベントの自粛ムードが続く中、「それどころではない」と町の協力は得られなかった。
 「震災後にボランティアで町にやって来た見ず知らずの人たちが、たくさんの愛で俺たちを救ってくれた。自分たちだけでは立ち直れなかったはずだ」。この思いをどうしても形にしたかった。
 町内外に賛同の輪を広げ、フェスは夏の恒例行事に育った。園児たちも参加し、太鼓を演奏する。町が協力的な姿勢に転じ、昨年から復興の象徴でもある町文化交流センター「おしゃっち」で開催できるようになった。
 出演者、設営や音響に携わる町外の人々はほとんどが初回からのメンバー。実行委からの多少無理な要望にも応え、一緒にフェスをつくり上げてくれた。熱い思いを共有してくれるのがうれしかった。
 だが、岡野さんは開催を重ねるにつれ、思い悩むようになった。町を見渡せば公共施設や住宅が再建され、新しい暮らしが始まっている。それなのに、みんなが毎年来てくれるのはあくまで支援のためだ、と-。
 「復興という名の下で、いつまでも善意で協力してもらうわけにはいかない。復興に区切りをつけるのは俺たちの責任だ」
 実行委は決断を下した。9回目の今年は新型コロナウイルスの影響で見送ったが、来年8月は10回目として開催し、終止符を打つ。
 「フェスを残すことも町おこし。でもフェスがあったことで残ったものを、俺たちは大事にしたい」
 町外の人たちから受けた多くの恩に対し、フェスを通じて感謝の気持ちを伝え続けた。それを見た大槌の子どもたちは、素直に「ありがとう」と言える人間に育っているようでうれしい。
 フェスを支えてきた出演者たちも、実行委の決断を歓迎してくれた。岡野さんは「俺たちが自分で『復興した』と言える日を待っていてくれたんだと思う。やっと対等な友人として関われる」と強調する。
 最後となる来年のテーマは「LAST STATION」。終着駅を意味する言葉に「終わりは次の始まり」という思いを込めた。
 「最後の最後まで『ありがとう』と言いながら笑ってやる。フェスはなくなるが、違う形で世界中に感謝の気持ちを発信し続ける」
 見つめる先に「新たな線路」を走り始めた町の未来がある。
(坂本光)

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