大川小で妹を亡くした女性、経験を映画に 「春をかさねて」「あなたの瞳に話せたら」

上映会で撮影の思いを語る佐藤さん=3月21日、石巻市の旧観慶丸商店

 宮城県石巻市出身の佐藤そのみさん(24)=東京都=が東日本大震災の経験に基づいた映画を製作し、市内で初の上映が3月に行われた。津波で児童や教職員計84人が死亡、行方不明となった石巻市大川小で、当時6年だった妹を亡くした佐藤さん。「過去を一度形にすることが必要だった。あの日のことを今も言葉にできない人に、映画が届くといい」と願う。
 作品は劇映画「春をかさねて」(2019年、45分)と、ドキュメンタリー「あなたの瞳に話せたら」(19年、29分)。監督はいずれも佐藤さんが務めた。2本とも昨年春に卒業した日大芸術学部映画学科在学時の作品だ。
 「春をかさねて」は震災で妹を亡くした14歳の祐未が主人公。次々と訪れる記者の取材に追われる一方で、同じ境遇の幼なじみれいは、ボランティアの学生に恋心を抱く。祐未はれいに、思わず嫌みを口にしてしまう。だが、れいも心に傷を負っていた。震災で傷ついた少女の心と友情を描いた。同市出身の俳優芝原弘さん=仙台市=や市民らが出演した。
 「あなたの瞳-」には、犠牲となった家族や友人宛ての手紙の読み手として、妹みずほさん=当時(12)=を亡くした佐藤さんをはじめ、同じような立場にある子らにカメラを向けた。同年代の遺族の心情を等身大で映し出し、昨年「東京ドキュメンタリー映画祭2020」で準グランプリと観客賞を受賞した。
 もともと絵本や小説の創作が好きだった。大川小6年の時、「自然豊かな大川で映画を作りたい」と夢を抱いた。校舎解体の声が上がった際は卒業生仲間と共に保存を訴えた。「大川は映画にされるべき場所で本当に好きな所」と話す。
 「この映画を作らないと人生が前に進まないと思った」。大学で映画製作者として大川小と向き合った。「被災者として取材され描かれてきたが、描かれるのでなく、描きたかった」と無我夢中で取り組んだ。
 昨春、卒業に合わせ石巻での上映を計画したが、新型コロナウイルス禍で延期に。震災10年の今年、市中心部の旧観慶丸商店で1年遅れの上映会を実現させた。計2回約60人が鑑賞した。「一生忘れられない時間になった。映画を通し、震災を言葉にできる人が増えるとうれしい」と感慨深げに話す。
 「震災から時間が止まっていた。この10年の答えが見つかるのはこれから」と佐藤さん。自分の心の声に向き合いながら、映画の完成を一つの節目に新たな一歩を踏み出す。

震災の悲しみ、普遍的に表現

 東日本大震災の津波で石巻市大川小6年だった妹を亡くした遺族の手による劇映画「春をかさねて」。監督の佐藤そのみさん(24)=東京都=が自らの体験を重ねながら、虚構の物語を通じ、震災の悲しみをより普遍的に表現した。英語で言う「アート」とは本来、人間が生きるための全ての「術(すべ)」を指す。震災の記憶に向き合い、これからの人生を生きる手だてとして創作された本作は、真のアートと言える。
 震災の伝承はもちろんだが、筆者は友情の物語として印象深く感じた。震災の記憶を発信する人と、胸の奥にしまい込んで吐き出せない人。祐未とれい、2人の登場人物が遺族の心情の両極を表す。2人の絆は、二つの心情の間に横たわる溝に架けられた橋のようにも読み取れる。
 佐藤さんには本作とともに、ドキュメンタリー映画「あなたの瞳に話せたら」がある。震災のような重いテーマを映画が扱う場合、フィクションよりドキュメンタリーの方が説得力を得やすい。
 一方で、フィクションの制作では対象をより客観視する作業が必要とされる。佐藤さんは、当事者でありながらも震災をやや引いた位置から眺めることになり、冷静な視点を獲得することに成功した。異なる二つの表現スタイルがうまく補い合った格好だ。
 「あなたの瞳―」に映っているが、大川小の校庭には、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をイメージして児童たちが描いた壁画が残る。賢治の「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉が刻まれている。
 筆者は震災後、取材ではなく、一個人として大川小を訪れたことがある。壁画を目にして、がれきの中の銀河鉄道に息をのんだ。
 銀河鉄道に乗り込むのは、生者のジョバンニと死に向かうカムパネルラだ。震災で命をつないだ子どもたちは「自分はなぜ生き残ったのか」「自分は生きていてよいのか」。賢治の言葉を映すような問いにさらされ、最も苦悩してきたのは子どもたちだろう。
 佐藤さんが「被災者として描かれるのでなく、描きたかった」と述べたことにも深い感慨を覚えた。遺族自らが言葉をつむぎ、創作にこぎつけた歩みは、震災10年が生み出した一つの果実だろう。
 映画は、悲しみを抱える人々が犠牲者と対話する「銀河鉄道」になり得る。賢治が愛したイーハトーボの海岸から北上川を下れば大川地区に達する。銀幕に映ったヨシ原が美しい。
 本作は、地域の人々を癒やす大河の一滴になる。
(生活文化部・会田正宣)

石巻かほく 観賞記>石巻出身の佐藤さん監督映画 大川題材、自身の体験重ねる
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