「子どもの哲学」実践広がる 宮城の小中学校

語り合う小原中の生徒たち。新型コロナウイルス感染防止のため、ボールは足でパスしている

 子どもたちが対話を通じて考えを深める「子どもの哲学」(p4c)が、宮城県の学校で広がり始めている。2020年度に県内で実践したのは仙台、登米、白石各市の小中学校を中心に計約100校で、白石市では全小中学校の13校で取り組まれている。生徒が積極的に対話を重ねている同市小原中を訪ね、p4cの魅力を探った。
(生活文化部・安達孝太郎)

生徒自らテーマ設定

 小原中では月に1度程度、授業時間を使ってp4cが行われている。1学年1クラスの同中では、1~3年生全員が参加して実施するのが基本だ。話し合いたいテーマは、子どもたちが出し合って決める。昨年12月にあったp4cでは「おなかの子に障害があると分かった時、その子を生む覚悟はあるか」がテーマだった。道徳の時間を使い、生徒16人に教師ら6人も加わって輪を作った。

 司会の熊谷里奈教諭(30)が、ボールを持つ人だけが話すといったルール(別表)を確認した後、問いを提案した大浦寛汰さん(15)=当時3年=が口火を切った。保育園児だった時、知的障害のある子がいたことを振り返り、「本人や母親が幸せなのかどうか考えたかった」と説明した。大浦さんは「その人たちがあまり幸せとは思えない。自分に覚悟はない」と語り、ボールを友人に回した。

 「幸せにする自信がない」「私は生む。親として楽しいことをつくってあげられる」。大浦さんの後の男女8人の意見は割れた。

互いに否定せず、話しやすく

 そんな中で、渋谷そらさん(13)=同1年=が「私だったら生んでほしい」と、「親」から「子」へ視点を変えて話した。高橋隆晟(りゅうせい)さん(15)=同3年=も「障害の種類にもよるけれど、自分はできるだけ生きていたい。この世で生きていく自信があるか、みんなの意見を聞きたい」と呼び掛けた。

 「自分だったら部屋にずっとこもる。不器用で何もできないから」「生きたいけれど、支えてくれる人が重要だ」。そんな意見が出た後、佐久間良文教諭(46)が「何人かが口にした『幸せ』とは何だろう」と新たな問いを出した。

 「他人の目線と関係なく、好きなことを見つけられること」「周りの人に受け入れられること」。テーマは、人と人とのつながりに向かっていった。

 40分ほどの語り合いの後、生徒は授業を終えての考えをシートに記入した。大浦さんは当初の考えを変え、「その人が幸せと思ったら幸せ」と書いた。

 3年になってp4cで積極的に発言するようになったという大浦さんは、取材に「みんなの考えを聞きながら、自分の考えを出すのが楽しくなった」と振り返った。庄子陽菜(はるな)さん(15)=同3年=は「友達の意見を否定しないというルールがあるので、話しやすい」と語った。熊谷教諭は「考えを深めるためには、相手の意見を受け止めることがとても大切」と強調した。

復興支援を機に導入 教育者「自己肯定感高める」

 「社会が目まぐるしく変化する中、深い対話を通じて主体的に考えることが教育現場で求められている」。宮城県でp4c普及の拠点となっている宮城教育大の野沢令照(よしてる)特任教授は、子どもの哲学に関心が広がっている背景をこう説明する。

 宮城でp4cが普及するきっかけとなったのは東日本大震災被災地への復興支援だった。2013年、米ハワイ州ホノルル市の教育関係者が仙台市の若林小を訪れた際、ハワイで積極的に行われていたp4cを披露した。

 若林小での実演を見学した野沢さんらの呼び掛けで他の教諭も関心を持ったことから、日本にp4cを紹介していた上広倫理財団(東京)が宮教大などへの支援を開始。17年には同大に、p4cの普及を後押しする上広倫理教育アカデミーが開設された。アカデミースタッフとなった元教諭らが、研修会を開催するなどして普及に努めている。

 16年度から全小中学校で取り組みを始めている白石市の半沢芳典教育長は「互いを大切にする対話は、子どもたちの自己肯定感も高めている」と語る。

[p4c]1970年代に米国で開発された教育手法。「philosophy for children」(子どもの哲学)の頭文字に遊び心を加えてp4cと呼ばれている。宮城県のほか、新潟県や兵庫県などの一部地域でも教育現場への導入が始まっている。

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